アントランスミッション-3
けれど、夏になり、制服も半袖に変わり
彼女にキズがバレたのは、その数日後
まるで化け物でも見るかのようにわたしの腕を見つめる彼女
カオがこわばり、ひきつっていた
その瞳には、恐怖心からか涙が浮かんでいた
わたしは、なにも言えなかった
彼女も言葉を発せず、そのまま何分も二人で立ち尽くしていた
そして、いきなり走り出した彼女
トイレへと駆け込んだ
わたしはそのあとを追った
彼女は、個室にカギをかけてこもっていた
わたしは、そのドアノブをガチャガチャとひねるが、開くはずもなく
そして、一言、彼女の名前を呼ぼうとしたとき─
─びちゃびちゃ─
個室から聞こえてきた音
彼女の苦しそうな声とともに
小さな嗚咽をはさみ、またその音が響く
そして、すえた匂いがわたしの鼻をさした
わたしは直感で理解した
その意味を
涙を流しながら、彼女の名前を叫んだ
その音を聞きたくなかったから、かきけすように
わたしを見て、そして苦しんでいる彼女を、その音を否定したくて
何度も何度も泣き叫んだ
個室のなかからも、悲鳴みたいな泣き声が響いてくる
薄いドアを挟んで、わたしたちは何分も泣いていた...
しばらくしても、わたしの悲しみは止まらなかった
そんなとき、不意に個室のなかから
─どうして─
嗚咽をこらえひきつった声が
わたしもまた、泣きながら
─あんたが、好きだから─
真夏の、半袖の服をまとって
わたしは、ついにそれを言った
─あんたが、好きすぎて、けど、どうしていいか、わかんなくて─
途切れ途切れに、けど一つずつ確実に言葉を紡いで
けれど
─なに、それ─
嗚咽のなか、否定とか嫌悪感とかをごちゃ混ぜにした声が
わたしの愛してしまっている彼女の声が
─わけ、わかんない、よ─
結果はわかっていた
それが怖くて、いままで隠していたんだから
けれど、その言葉はあまりにもストレートで
わたしの心をえぐって...
そしてまた聞こえてくる音