プラトニックラブ-1
錆びれたホテルの一室。
毎週のように私はここに来て、最低なセックスをする。
「瑠美。ビールでも飲むか?」
男は、古びた冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
色褪せた小さめのソファーに二人腰掛け、あまり冷えてないビールで喉を潤した。
シャワーを浴びたばかりの体に、少し温いビールがジワジワと染みてきた。
男は喉が渇いていたのか、喉をならしながらビールを流し込んでいる。
ビールを持つ左手には指輪がキラリと光っている。
冷蔵庫からは奇妙な機械音が微かに聞こえ、小さな映りの悪いアナログのテレビには、今人気絶頂の女子アナウンサーが楽しそうに喋っている顔が見える。
男は目を細め、煙草をふかしながらテレビを見ている。
その横顔は48歳にしては若かった。
「じゃあ、また来週」
男はいつもこの言葉を最後に私と別れる。
私を縛る鎖のつもりなのだろうか。
遠くから雀の鳴き声が聞こえる。
浅い眠りの中で私は朝がきたことを確信する。
pipipipi…
無機質な音が部屋中に広がる。
布団から手を出しアラームのスイッチを切る。
けだるい体を起こし、朝日で明るくリセットされた部屋を見渡す。
また1日が始まるー…。
「ハァ」
小さなため息が寝室に響きわたった。
15階建てマンションの最上階、毎朝のようにスーツを着て、コーヒーをブラックで飲む。
こういう生活に昔は憧れてた。
コツコツとヒールを鳴らせて早足で歩くキャリアウーマンとかすごいかっこいいと思ってた。
でも、今はどうだろう。
最近、毎朝のようにこんなことを考えるようになった。
今の生活に不自由しているわけではない。
でも、突然虚無感で胸がいっぱいになる。
「はぁ」
本日二回目の溜め息をもらし、桜田瑠美と書かれた入社証をカバンに入れる。
鏡の前で一通りチェックをし、少し高めのヒールをはき部屋を出た。
丁度部屋を出たときに、エレベーターが到着した音が聞こえた。
誰かがエレベーターに乗り込むのが見える。
私は小走りに「すみません、乗ります」と言ってエレベーターに乗りこんだ。
間に合ってよかった。
最上階だからエレベーターを待つのにも一苦労。
ふと、隣を見ると少年が立っていた。
たぶん、制服は名門校のブレザー。
背丈は175はあるだろう。
赤っぽい長めの髪で目がパッチリしている美少年だ。
彼は私の視線に気付くと、ニッコリと笑った。