やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑧-9
──私も、私も必ず繋ぐから。
左打席に入った。左足のスパイクで地面を掻き、足場を固めてベンチを見た。永井のサインは初球バント。
──初球、セーフティか…。
今の出塁で、ピッチャーは動揺していると永井は思った。
バントか。だったら──
加賀はリードを大きく取る。──揺さぶりを掛け、集中力を削ぐために。
打席で構える佳代。
キャッチャーのサインはストレート。ピッチャーは頷いてセットに構えて１塁を見た。加賀が大きなリードを取っている。
ピッチャーはプレートを踏んだ右足を外した。加賀は頭から１塁に戻った。が、ピッチャーは投げる仕草を見せただけだった。
再びリードを取る加賀。ピッチャーはプレートを外し今度は牽制球を投げたが、その動作は緩慢でボールも緩い。
──コイツ、ひょっとして牽制が苦手なのか？
加賀は確かめるべくリードをさらに広げた。普通ならアウトになるようなリード。
ピッチャーはしばらく加賀を見ていたが、視線を切ると牽制もせずホームに向かって投げた。
佳代は素早いバントの構えから、ピッチャーの左側にボールを転がした。
サードは慌ててダッシュして素手でボールを掴み、必死にファーストへ投げた。が、佳代が１塁を駆け抜ける方が早かった。
「ようしッ！続いたぞ」
盛り上がる青葉中。選手すべてがベンチの金網フェンスに連なり攻撃に見入っていた。
１番乾が打席に入る。加賀も佳代も、大きなリードでピッチャーにプレッシャーを掛ける。
初球、２球目は高めに抜けた。キャッチャーは両手を下に振った。──低く投げろと。
ピッチャーの３球目。すると、今度はバウンドするボールとなった。
キャッチャーは両手を広げ、真ん中にミットを構えるが、結局、ストライクが入らずフォアボールを与えてしまった。
前の２回とは別人のようなピッチング──わずかな動揺が身体に表れる恐ろしさ。
東海中ベンチから榊が出てタイムを取る。続いて伝令がマウンドに走った。
ピッチャーを中心にして内野手全員がマウンドに駆け寄った。伝令は榊の考えを伝えると同時に、個々の思いをひとつにする。
伝令がマウンドから去った。内野手もマウンドから各々のポジションへと散って行く。最後に残ったキャッチャーは、笑顔でピッチャーの肩をポンッと叩いてホームへ戻った。
２番足立は打席から永井を見る。──初球待て─のサイン。足立はヘルメットを触ってピッチャーに視線を移す。