やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑧-6
──やっぱり！
ボールはふわりと高めに浮き、減速して低めに落ちてくる。サード乾と直也、それに一ノ瀬がホームに向かって猛然とダッシュする。
バッターは迫り来る守備が視界に入り、すぐにバットを引いた。──このままではアウトになると考えて。
バッターはベンチに目をやった。榊はサインを出す。それを見たバッターは、ヘルメットのツバを掴んで打席で構えた。
──これで行こう。
直也は、達也のサインに頷くと早い動作から３球目を投げた。
ボールは内角の甘い球。バッターはバットを振りだす。ボールは軌道を変え、より内側に曲がり落ちた。
バットが空を斬る。ボールを掴んだ達也は、バッターの背中にタッチした。
１番を三振にし、続く２番も三振を奪って３番がネクストから打席に向かって来る。直也の顔が急に険しくなった。
大きく屈伸をして左打席に着くと、右足のスパイクを地面でねじり固める。
──コイツだけは打たせない。
練習試合でホームランを打たれたバッター。直也の中に闘志がたぎる。
達也は足元や構えを見て直也の方を向いた。
──あの顔じゃ、真っ向勝負しか頭にないな…。
達也はサインをだす。──内角高めのストレート。
直也は深く頷いた。
両足で踏んだプレートから左足を後ろに下げる。グラブを胸の前で構え、達也のミットを見据えた。
──ふッ！─と息を大きく吐きだしたと同時に、左足が浮き、折り曲げられ、右足を軸にして上体を時計回りにねじった。
バッターから背番号が見える。
左足が宙を蹴った。巻いたゼンマイを解き放つように、ねじった上体は横を向き、左腕が前に伸びる。
バッターは、幅広のスタンスから小さな右足のステップでタイミングを合わせる。バットを握る手に力が入る。
直也の左足が前に伸びマウンドの土を掴んだ。腰の回転に合わせて上体が前を向き、連動して左腕が引き戻されて右腕のひじが遅れて出てきた。
右足がプレートを蹴り、力を増幅させる。右腕のひじ先が外旋回をしながら前へと伸びる。この瞬間にだけ指先に力を込め、ボールが掛かるように腕を強く振り抜いた。
左足が上体を追い越していく。投げた勢いが止まらず身体が右に流れていく。
ボールは内角高め。バッターは軸足のひざを内に絞ると続いて太腿、腰、上体の左側をねじった。右の足先は内を向けたまま開かずに、壁を作って力を内に溜める。
上体に巻き付けるようにバットが出ていく。インパクトの瞬間、右肩を素早く開き、ねじりで生まれた力を一気に解放してバットを振り切った。
──キンッ！─という鋭い金属音。打球はライトに高く舞った。
──まさか！
直也は身体を屈ませ、振り返り打球の行方を追う。──半分、諦めの表情だ。
バッターは、手応えからホームランだと確信して１塁に走りだした。
──いきなり来たァ！
打球が上がった瞬間、佳代はフェンスに向かってダッシュする。帽子を飛ばし、落下地点である真後ろに向かって。
フェンス手前で向きを変えた。打球がぐんぐん迫って来る。