やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑧-5
「ああーッ！おっしいなあ」
頭を抱えて嘆く佳代。同じようにベンチの選手達、１塁側の観客席から嘆き声があがった。
「これなら、いつでも点は取れるぞ！さあ、次の回だ！」
加賀はそう言って手を叩くとベンチを飛び出す。悔しがる仲間達の気持ちを切り替えさせようとする。
「ヨッシャーッ！とっとと終わらせて次だ！」
加賀に続いてレギュラー達も、気を吐いてベンチを飛び出して行く。周りもつられてハツラツとした顔でベンチから声を掛けた。
「加賀君はムードメイカーに良いですね」
「あんなヤツとは……」
永井は驚いた。加賀にそんな人間性を感じていなかったからだ。
１回裏、東海中の攻撃。マウンドに立った直也は、先ほどの走塁でまだ息が上がっている。
達也は１球受けるたびにミットを外し、両手でボールを磨きながら数歩前に出て投げ返す。直也の息を整えるために時間を掛ける。
内野はファーストの一ノ瀬が、サード乾、ショート森尾、セカンド和田に投げ転がす。各ポジションはそのボールを捕って一ノ瀬に投げ返す。
外野は二手に分かれ、レフトの足立とセンターの加賀が、ライトの佳代とライト・ファウルゾーンに着いた控えの田畑が、数十メートルの距離でキャッチボールを繰り返す。
「ボール・バァークッ！」
達也がグランドに声を挙げた。一ノ瀬は１塁ベンチ前に立つ控え選挙にボールを渡し、外野は田畑がボールを受け取りベンチへ走って行く。
「ふう…」
ようやく息が整った直也。セット・ポジションに構え、最後の球だけ全力で投げた。
達也は内野手のようにミットを引きながらボールを掴み、右肩の位置でボールを握ると小さなステップからセカンドに送球した。
直也はマウンドで身体を屈める。頭上の少し上を矢のような送球が飛び、ボールを捕ったセカンド和田はベースをタッチしてみせた。
東海中ベンチから驚きの声があがった。投球動作からセカンドまで４秒と掛かっていない。
──盗塁は厳しいな。
１番バッターが左打席に入る。以前、直也が頭に当てた相手だ。
達也のサインは外角低めのストレート。直也は頷き、ワインド・アップの体勢から大きく上体をねじって右腕を振った。
スピードのあるボールが構えたミットにすい込まれる。
「ストライクッ！」
バッターは初球を見逃した。構え直す時、左手がバットの真ん中辺りを触れた。達也は何か仕掛けて来ると感じ取る。
プロテクターを触って内野に指示を出す。──バント注意のサイン。
２球目のサインは外のカーブ。直也はグラブを胸元に構え、ボールの縫い目に合わせた。
上体をねじり、太腿の裏とふくらはぎが触れるほど左足を深く曲げ、溜めた力を右腕に込めた。
強い振りと対照的に、抜くようなリリースでボールは放たれた。
投げた瞬間、バッターは腰を屈め、左手をバットの真ん中辺りを握った。