やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑧-4
──まっすぐだ。まっすぐだけだ。
キャッチャーは３番という事もあり、慎重にサインを選んだ。ピッチャーは頷き、素早いモーションから１球目を投げた。
──外の低め！
直也は作戦を忘れ、ステップした左足を踏み込み、腰の回転に合わせてバットを出す。
ボールが向かってくる。畳んだ腕を伸ばしながら、グリップを強く握った。
キンッ！──
直也のスイングが重いストレートを弾き返す。打球は、ピッチャーの股間下を抜けてセンター前に転がった。
「出やがった…」
達也は、ネクストサークルから直也のバッティングを見て笑みを漏らす。──よく繋いでくれたなと。
──達也か。コイツは内角低めだったな…。
再びサインを送る榊。キャッチャーはそれを見て素早く配球を組み立てていく。
初球は外角低めのボール。達也は反応を見せない。２球目は真ん中からシュート回転で落ちるフォーク。
ストライクになったが、これも乗ってこない。
キャッチャーは困惑する。──何を狙っているのかと。
達也はただ１球を狙っていた。相手ピッチャーを潰すため、新しい変化球だけを。
そして３球目。キャッチャーはボールになるようサインを出す。──勝負球の布石を打つために。
ピッチャーは投げた。ボールはフワリと高めに浮いた。
──これだッ！
見逃せば外角のボール球。だが、達也は左足を大きく踏み出して思い切り叩いた。
鋭い打球がファーストの頭上を越え、ライン際で弾んだ。白い粉が煙のように舞った。フェアだ。
１塁ランナーの直也は大きなリードから、打った瞬間、２塁へと地面を蹴っていた。
走りながら３塁コーチボックスを見る。ブレる視界の中、彼は腕を回す仲間の姿を見た。
直也の身体が大きく膨らむ。スピードを落とさず２塁も蹴った。ボールはライトのファウルゾーンを転がり、ライトが未だ追い付かない。
「いけッ、いけぇーーッ！」
ベンチも観客席も直也の走塁に興奮の叫びを挙げた。
ライトはようやくボールを掴み、ライト定位置付近にまで下がっていたセカンドに返球する。達也も１塁を蹴った。直也は３塁も回った。
セカンドはボールを捕り、速い動作で２塁カバーに入ったショートに投げた。
──これで先制だ！
直也はまっすぐホームに突っ込む。達也は頭から２塁に滑り込んだ。
低いストライク返球。ショートはグラブに捕り、ベース手前に振り下ろす。
「アウトッ！」
２塁々審の右手が上がるのと、直也がホームに滑り込むのが同時に見えた。
「３アウト！チェンジ」
しかし、主審はホームインを認めなかった。わずかな差だった。青葉中の先制は夢に消えた。