やっぱすっきゃねん!VG-17
──キンッ!
打球がレフトに高く舞った。足立はフェンスに向かってバックする。
佳代は──信じられない─といった顔で打球を目で追った。ボールがレフトのポール際へと伸びていく。足立はフェンスに背を向けた。
打球が落ちてくる。足立はフェンスの縁を左手で掴み、ジャンプして身体を引き上げた。グラブを目一杯に伸ばす。
が、及ばず、打球はポールの右、フェンス向こうで高く弾んだ。
「たった…4球で…」
客席から見つめる有理の口から思わず漏れた。──認めたくない現実。
バッターは右手の拳を突き上げて、2塁をゆっくりと回って行く。
「これ以上は無理だな…」
永井はブルペンで準備する淳に目を向けた。すでにキャッチャーを座らせ、良いミット音を立てている。
この回、2度目のタイムが取られてピッチャー交替が告げられた。
──こんなんじゃ、仕方ない…。
佳代は、俯いたまま足場を均しだした。──淳のために。
淳がブルペンから駆けて来た。力無い表情でボールを渡すと、
「…ごめん…何にも出来なくて」「気にするな。調子の悪い時も有るさ」
淳はむしろ、佳代のショックを気にしている。
「…本当にごめん…」
そう言葉を残して佳代はマウンドを降りた。ベンチに駆け込むと、永井の前に立つ。
「…すいませんでした…」
消え入りそうな声で帽子を取り、頭を垂れた。
「まだ始まったばかりだ。気にするな」
永井も、ショックを気にしてキツい言葉を遣わない。
──皆が私を庇ってくれる。悪いのは私なのに…。
余計に気持ちが落ち込む佳代。ベンチに腰掛けるとバッグからタオルを取り出し、それを頭に被った。
ひとつのアウトも取れないばかりか、5点あったリードを2点にしてしまった。
自分が情けない。そう思うと悔しさに涙が溢れてくる。
その時だ。ベンチが軋んだ。誰かが佳代のそばに座った。
「…佳代」
直也だった。彼はグランドを見つめながら言った。
「落ち込むのは後にして、最後まで試合を見ろよ」
佳代は、タオルを被ったまま何も言わない。時折、鼻をすする音が聞こえるだけだ。
「ショックだろうが、仲間はまだ戦ってるんだ。いつものおまえなら……」
厳しい言葉を遮るように、佳代は涙声で言った。──そんな余裕無いと。
直也はチラリと佳代の方を向いたが、それ以上、何も言わずに再びグランドを見つめた。
試合は交替した淳が好投し、後続を完全に抑え、5‐3で青葉中が辛くも勝利した。
…「やっぱすっきゃねん!?」?完…