やっぱすっきゃねん!VG-14
──榊さんは、あのピッチャーと心中する気だな。
永井は勝利を確信した。──最終回、佳代の活躍を頭に浮かべて。
しかし、一哉は榊と同じ心境でゲームを見つめていた。──榊は将来を考えて、ピッチャーにゲームを託したと。
佳代へのサインは送りバント。彼女はそれを確実に決めて1アウト2塁とした。
「下加茂ッ!キャッチボール付き合って!」
佳代はベンチに戻ると、稲森のグラブを借りて慌ててブルペンへと走る。
「どうやら、最終回は佳代を使うみたいだな」
「エッ!本当ですか?」
ポツリと言った一哉の言葉に、尚美と有理が過剰に反応する。一哉はベンチ後方のブルペンを指差した。
そこには、控えキャッチャーの下加茂とキャッチボールを繰り返す、佳代の姿があった。
「ユリ、行こう!」
尚美に威勢良く引っ張られ、有理もブルペン近くへと駆けて行く。一哉は、そんな光景に笑みを浮かべるとグランドに視線を移した。
「佳代さん、そんなに慌てなくても…」
「分かってるけどさ。つい…」
大会初登板に、佳代は焦る気持ちを抑えきれない。東海中がタイムを取り、思った以上に余裕があるのに気持ちはそう感じていない。
佳代の昂ぶりはピークに達していた。
「佳代ォーーッ!」
聞こえたのは安心出来る友達の声。振り向くと、クシャクシャの顔をした尚美と有理が、ブルペン横の金網にしがみついていた。
「ナオちゃん、ユリちゃん!」
緊張が一挙に緩む。今の彼女には最強の応援団だ。
「最終回、投げるのね!」
「う、うん。どうなるか分からないけど、とりあえずやってみるよ」
「頑張って!藤野コーチもあそこで観てるから」
有理が指差した先には、いつもの一哉の姿があった。
──コーチ…。
切なげな顔で一哉の表情を追う佳代。それに気づいたのか、一哉が瞬間、佳代の方を見た。
が、それも一瞬で、すぐにグランドに視線を戻す。だが、今の佳代にはそれで十分だった。
「下加茂ッ!投げ込み行くよ」
佳代は下加茂を座らせ、力を込めたボールを投げだした。その真剣な表情に、尚美と有理は黙って見つめていた。──ただ、活躍を期待して。
その回、青葉の攻撃は凄まじかった。1アウト2塁で打順が1番に回ると、長短5連打を浴びせて3点の追加点をあげた。
5点差をつけての最終回。すべてのお膳立ては揃った。
「佳代ッ、行くぞ!」
永井がタイムを取ってピッチャー交替を告げた。佳代は急いでスポーツドリンクを2杯、喉に流し込む。