やっぱすっきゃねん!VG-13
──これだから野球は…。
観客席でひとり、一哉は笑みを浮かべている。周りが心配そうに見守る中で。
それは3塁側ベンチの榊も同じ思いだ。
──必ずチャンスは巡ってくる。後は、それをモノに出来るかどうかだ。
ピンチを迎え、直也の闘志に火がついた。続く2番バッターは、すべて内角を攻めて三振に取った。
気持ちが守りに入っていない。
──これならイケそうだな…。
達也はそう思った。
「タイム!」
その時だ。永井がタイムを取り、伝令の稲森がマウンドに走って来た。達也にはイヤな予感がした。
「監督は、次のバッターを歩かせて4番と勝負しろと言っている」
「ち、ちょっと待てよ!」
直也には信じられない。今の自分の状態なら、完全に抑え込める確信があった。
その時、直也の前を遮るように達也が立つ。
「分かった…じゃあ勝負は4番とだな」
稲森はベンチに戻っていく。内野手もマウンドを後にした。残された直也に達也が言った。
「気持ちを切り替えろよ。でないと取り返しのつかない事になるぞ」
「…ああ、分かってる」
直也は3番を敬遠すると、4番をライトフライ、5番をセカンドゴロに仕留めてピンチを脱出した。
「ナイス・ピッチング!直也」
控え選手や永井、葛城が笑顔で直也を出迎えた。が、当の本人は、耐え難い屈辱を腹に抱えたまま笑顔で皆に応えていた。
──ピッチャーというのは、つくづく孤独なポジションだな。
傍で見ていた達也はそう感じずにいられなかった。
続く5回、6回はお互い無得点に終わって最終回の7回の表、青葉中の攻撃は8番加賀からだ。
「加賀。狙っていけ!」
永井はそう言って送り出す。東海中のピッチャーの投球数はすでに100球を超えて、球威も変化球のキレも著しく落ちていた。
──ここで追加点を取れば…。
「佳代ッ!」
永井はネクストに向かう佳代を呼び止めた。
「何ですか?」
「この裏、投げる準備をしろよ」
「わ、私が投げるんですか?」
「そうだ。榊さんにおまえの成長を見せてやれ!」
永井は笑顔で最終回のプランを語ったが、当の本人である佳代は複雑な心境だった。
──いくら練習で良かっても、試合は別物だ。本当に通用するのか…。
加賀は、4球目の外角低めのストレートをライト前に弾き返して出塁した。明らかに球威は落ちている。
が、榊はなおも動かない。ブルペンでも誰も投げていない。