やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑧-11
鋭い打球が１、２塁間を抜けた。佳代はゆっくりとホームを踏んだ。３塁コーチャーは──間に合わない─と思い、右手をぐるぐると回した。
２塁ランナー乾はスピードを緩めず３塁を蹴る。ライトは、打球に向かって猛然とダッシュする。
差し出したグラブですくうようにボールを掴むと、あらん限りの力でホームへ投げた。
乾はスライディングの体勢に入った。キャッチャーはホーム上で腰を落としてブロックする。
バウンドした送球をキャッチャーが捕った。乾は滑り込み、ブロックを避けて右足をホームに伸ばす。ボールを掴んだミットが右足の行手を阻む。
互いの身体が激しくぶつかり弾け飛ぶ。キャッチャーの右手は、ミットのボールをしっかり握っていた。
「アウトッ！」
主審が右手を力強く振り下ろした。
「このチャンスで２点か…さすがだな」
東海中の堅実な守備に驚きの声を漏らす永井。立ち上がり掛けた腰をゆっくりと降ろした。
攻守交替。達也がベンチに戻ると、直也がレガースを持って待っていた。
「おまえ何やってんだ！さっさとマウンドに行けって」
「いいから大人しく立ってろよ」
達也の周りを直也の他、仲間がとり囲んでプロテクターやレガースなど準備を手助けする。
「この回、ゼロに抑えるぞ」
達也にマスクを手渡す直也。
「当たり前だッ！」
互いが檄を飛ばし合い、グランドに駆けて行った。
「すいませんッ！」
防具を着けた達也は慌てて主審の元に走り寄り、マスクを降ろして屈み込むとミットを構えた。
直也はそのミット目掛けて練習球を投げ込んでいく。
３回の裏、東海中の攻撃は７番から。達也はマウンドに駆け寄った。
「この回は球数を制限するぞ」
「エッ、そんなに放ったか？」
直也は目を大きくして問い返す。
「いや、２回で２０球だ。だから、下位打線から始まるこの回は打たせて取って、６回までは全力で行くんだ」
──２巡目が勝負どころ。と、考える達也に直也は頷いた。
初球のサインは外角低めのボール。７番はプルヒッター──引張り専門─というデータから。
直也は力を抜き、コントロールを重視して投げる。キレのあるストレートが達也のミットを鳴らした。
２球目は横のスライダー。ミットを真ん中に構える。
直也は投げた。バッターは左肩を早く開いてバットを振った。
ボールは真ん中から外へと鋭く流れ、バットの先端に当たった。
勢いの無い打球がショートに転がった。ショートの森尾は前方にダッシュすると、バウンドに合わせてステップしてボールをグラブですくい上げ、素早くファーストに送球する。
ファーストの一ノ瀬は左足で１塁を踏み、右足を送球された方向に伸ばす。──出来るだけ早く送球を捕るために。
一ノ瀬のファーストミットがボールを掴んだ。遅れてバッターランナーが１塁を駆け抜けた。
その後、８、９番も早いカウントからゴロで打ち取り、結局、この回も３人で終わった。