盲愛コンプレックス-3
「好きすぎるんだよ、あいつが」
「熱いねぇ」
俺の言葉に笑いながら坂田が言う。
「で、保住はどうしたいの?」
「……今はとにかく、この気まずい関係を直したい」
中身のなくなったパックジュースをベコベコ鳴らしながら、俺は言って頭を掻いた。
「でも、どうしたらいい? 俺、一応謝ったんだぜ? ごめんて、悪かったって。でも、あいつは首を横に振るだけで……」
頭を横に振るだけで、何も言わない。
俺と会話するのを避けているようで、目を合わそうともしない。
「何か他に原因があるのかな」
「え?」
坂田が神妙な面持ちで言い、俺は思わず聞き返してしまった。
「他にって?」
「牧田さんが保住に幻滅したってよりは、何か心に負った傷を思い出したとか」
「た、たとえば?」
坂田の言葉に俺は慌てた。
「昔男にいたずらされて、その時のことを思い出したとか……」
「マ、マジか!?」
「たとえばだよ、たとえば。直接訊いてみたら?」
苦笑する坂田はそう言って、飲み切ったジュースのパックを小さく折り畳んだ。
俺はパックジュースのストローを噛みながら、坂田を軽く睨む。
そして小さく答えた。
「……んなこと、訊けるわけねぇよ」
「いずれにせよ、牧田さんと直接話し合う以外に方法はないんじゃないの?」
「分かってるよ! 分かってるけど、何て訊けばいいんだよ。ただでさえ俺をシカトすんのに……」
今の状況じゃ、まともに俺と話してくれるとは思えない。
授業が終わってすぐにメールを送ったのに、未だに返事も返ってこないんだ。
メールするのだって嫌なのなら、会って話すのなんかもっと嫌なんだろう。
俺は言って、深くため息をついた。
そんな俺の傍らで、坂田がぽんと俺の肩を叩いた。
「なら、誰か牧田さんと仲良い人に相談するとか」
「! そっか、市原に訊けばいいか!」
俺は俯いていた顔を上げた。
市原舞子(いちはらまいこ)は、茜の親友だ。
顔よし性格よしスタイルよしの彼女は、うちの組に限らず狙っている男は多い。
そんな市原のアドレスや番号を知っている俺は、何となく鼻が高い。
もちろん、茜繋がりで得ただけなんだけど。
「『ちょっと相談乗ってほしい』……って、これだけで通じると思う?」
「うん、通じると思うよ」
俺は坂田の言葉に頷いて、市原宛にメールを送信する。
返事はすぐに返ってきた。
『茜のこと? OK! いつ暇??』
「バーレバレ」
坂田がメールを覗き込んで言った。
「エッチ。人のメール見るなよ」
「何かやましいことでも書いてあるの?」
苦笑する坂田に、俺も笑って頭を掻いた。
「しっかし、本当にバレバレなのな」
「都合いいじゃんか。それに、すぐ返信返ってきたから、今暇かもよ。すぐに相談乗ってもらえばどう?」
「さあ――とっくに帰って電車の中かもしれねぇし」
しかし一応メールしてみる。
「『いますぐにだと都合悪い?』……っと」
やはりすぐに返事は返ってきた。
『OK! 2-B教室で待ってます☆』
つまり、今教室にいるらしい。
このメールから察するに近くに茜はいないようだが、もう帰ってしまったのだろうか。
――後でな、って言ったのに。メールだって、着信だって残したのに。