嘘〜彼女と約束〜-1
風がそっと僕を撫でると、声――とても小さな声が耳に飛び込んできた。
『ありがとう、私を忘れないでいてくれて……』
その声は空耳だったのかもしれない。でも、確かに彼女の声で、その声の向こうに彼女の――笑顔だった面影が見えた。
風を介して、僕に会いに来てくれた。そう思ったから、僕はまた風が吹くとき呟いた。
「これから、いつどんなときでもキミのことを思い出すよ」
『嘘〜彼女と約束〜』
彼女の事を思い出す、そう誓ったばかりなのに、気分は最悪だった。
彼女の事を思い出そうとすれば、必然的に彼女の死――そして、彼女の嘘についても思い出さなければならない。
あれは彼女が死ぬ数時間前のことだった。
僕が病室に駆け付けると、彼女はベットから上半身をおこし、笑って僕を出迎えてくれた。ただ、あちらこちらに包帯が巻き付いていて、見ているだけで痛々しかった。
「あれ、どうしたの?」
息も切れかけている僕に言った。
「交通事故に、あった、って言うから、さ」
「私なら、大丈夫よ」
そういうと、手を広げた。包帯を巻いているから、心配したものの、彼女が笑顔でいたから、擦り傷くらいだろうと思った。その後、少し彼女と話をして、仕事に戻った。
その日の深夜、彼女は死んだ。それくらいに重症だったのだ。そして、彼女は僕に嘘をついていた。彼女にとって最初で最後の嘘を……。
どうして彼女がそこまでして、嘘をついたのか今だにわからない。でも、僕は彼女を喪いたくなかった。嘘なんてついてほしくなかった。
よくよく考えてみると、彼女はもうすぐ死ぬんだ、と察知していたのかもしれない。だからこそ、僕に約束をたくさんさせたのかもしれない。彼女を思い出すこと、強く生きること、そして、どんなことがあっても未来に歩むということを……。
End
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