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circle sky
【青春 恋愛小説】

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Always the same sky-1

今日と全く同じ一日は無い。だが、特別な何かがないのならば。平穏な毎日がただ次々とやってきては過ぎ去っていく毎日ならば。完全な同一体ではない昨日君と今日君と明日君は、一卵性の三つ子みたいだ。



「あんた、ちょっと見て」

「うん?」

 日曜日の夕暮れ。僕は妻と二歳になる娘の三人で雑貨屋にいた。この街で数少ない、お洒落な雑貨屋さん。150坪くらいの店舗で、片側が雑貨類、もう片方に洋服が陳列されている。ユニークな柄のマグカップが棚に並んでいる。いろいろな形のサングラスもある。中学生か高校生くらいの女の子たちが三人で、奇妙な形のサングラスをかけては笑いあう。僕はその様をぼんやりと見つめている。彼女たちと僕の生活との確かな境界線が、くっきりした形の壁となって存在しているのを感じる。僕も歳をとったな、と思う。高校を卒業し、流れの速い川に突き落とされて八年経つ。

 僕は妻と妻の抱える娘と三人で装飾品のコーナーの前。妻の指差すピアスを持ち上げてみる。金属製の百合の紋章が刻まれた小ぶりなピアス。オニキス風のストーンが入ったピアス二つとセットで千円。

「ね、これいいんじゃない?」

「この歳になって、ピアス?」

「いいじゃない。最近つけてないし」

「穴、ふさがってないかな?」僕は自分の左の耳たぶに触れる。かつては、0Gまで拡張されていたホール。でも、今は目を近づけてみても、僅かなくぼみがそこにあるだけ。もうそこからは空は見えない。バナナの形の雲も、小鳥も、UFOも。

 妻は僕の耳たぶに目を凝らしている。「どう? 塞がってない?」と聞いてみる。「うん。多分」と妻は曖昧に頷く。僕はふと、「UFOは?」と訪ねてみるが、「なにそれ」と妻は冷たく言い放ち、僕は少しがっかりする。

 子供がぐずってきたので、僕らは短い滞在時間を惜しむように、不必要な装飾のためにやけに高価なボールペンを何本かちらちらと持ち上げた後、雑貨屋を後にした。



 かつて僕が僕自身の存在を確認するために存在していたピアスホールは、僕のとっての価値が損なわれていくのと比例するように、徐々に縮小した。僕はもうそこに僕自身の存在意義を求めたりはしない。妻がかつて自分自身の存在と折り合いをつけるために用いていたバスルームと別れを告げたのと同じように。



 一週間後の日曜日、かねてより来訪を伝えていた妻の母が家にやって来た。妻の母は、孫の成長に喜び、家庭を維持するための材料、つまりは僕の収入や住まいやそういった事に好感を持ったようだった。僕は妻の母を回転寿司へ連れて行き、当たり障りの無い会話を愉しみ、ビールを二杯飲み、妻の運転する車に揺られながらぼんやりと過去を振り返る。そして、今、僕のいる場所について考えてみる。今、僕が存在する、僕を取り巻く世界について考えてみる。子供の頃、僕は僕がなりたいと思っていた大人になれただろうか。誰にでも出来る、当たり前の生活など何一つ求めていなかった僕。つまらない生き方などしたくなかった。いつか、何かが大きく変わると思っていた。未来には、大きな可能性があり、希望があり、僕はなんにでもなれるし、どこへでも行けると信じて疑わなかった僕。よく言えば夢があり、悪く言えば世間知らずだった僕。


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