Always the same sky-5
店を出ると、酔いを醒ますように僕らは散歩をした。少し肌寒いという理由で、妻が僕の腕を掴む。その仕草に僕はドキリとする。こんなのは、一体何年ぶりだろうと思う。毎日飽きるほど一緒にいる妻に対して、こういった時にこんなにも恥ずかしくなるのは何故なのだろうと僕は不思議に思う。体を重ねるより、キスをするより、僕は不意に訪れるこんな時間に随分と落ち着きをなくす。
「そろそろ帰ろうか」と妻が言う。「あの子、泣いてるかもしれないし」
「そうだね、ミキ」と、僕はふと妻のことを名前で呼んでみる。
「どしたの急に」妻は案の定落ち着かない様子で、目を丸くしている。
「なんでもない」と僕は笑う。
なんでもない。そんな事すら、この退屈な日常においては、特別なことになる。もう大好きだとか、愛してるだとか、そんなことはもうなんだかよく分からなくなっても、僕らは間違いなく、お互いの特別。恋愛の熱もトキメキもすっかり薄れてしまっても、僕らが特別同士だという事実は、九年前から、何一つ変わっていない。
調子に乗って、ミキ、大好きだ、と言おうかどうか迷って、結局それはやめる。そんな事を言ってしまったら、恥ずかしさでどこかへ行ってしまいそうになるから。だから、僕は言葉の変わりに妻の手を握って、そっぽを向く。そうして、携帯電話で呼んだタクシーが到着するまでの間、ぼんやりといい気分で妻の手のひらのぬくもりを感じる。