軟禁五日目―性欲、倒錯、異常な愛情-11
重い鉄の扉が開く、鈍い音。
男達は入り口を見やる。
そこには、自分達の同僚である、デミアンの姿。そしてその手にはブリキのスープ皿があった。
冷たいブーツの音がZ室内に響く。
「デミ……アン」
シュルツ以外の二人の男は、デミアンの姿に明らかに動揺した様子を見せた。
Z室行きになった女が将校達の玩具であり、何時であろうと好き勝手してもよいというのは既に彼等の中では暗黙の了解であった。
しかし、リーナスはデミアンが目をかけてやったのであり、デミアン自身の階級が少しばかり上であったこともあって、同僚とはいえ彼等将校はどこかデミアンに遠慮している節があった。
デミアンは表情なく、リーナスとシュルツの元へ歩いて行った。
「デミアン」
そこでようやっとシュルツはデミアンの姿に気付いた様子だった。
「全く、お前も面白い玩具を見つけてきたもんだ」
腰を動かしながら、シュルツは口の端を歪めて言った。
「拷問に慣れてる連中だから、殴っても簡単に気ぃやっちまったりしね……」
シュルツの言葉がそこで途切れたのは、デミアンが彼を殴りつけたからだった。
ガシャン、とスープ皿が派手な音を立てて床に落ち、中身が辺りに飛び散る。
衝撃でシュルツの身体はリーナスから離れ、彼は体液に汚れた床に顔を打ちつけた。
「て……めぇ、デミアン!?」
デミアンはやはり表情なくシュルツに視線を向けると、丸腰のシュルツに向かって銃を突きつけた。
「!?」
男達が戸惑った様子でデミアンを見やった。
「どうした、デミアン!?」
「おい、止めろ……早まるな!」
しかし、デミアンは躊躇いなく引き金を引く。
ドン、と鈍い銃声と共にシュルツが仰け反った。
ドン――もう一発。
その肩と腹に赤い花を散らせ、シュルツは仰向けに倒れ込んだ。
「デミアン!」
ドン、ドン――銃声が二つ。
二人の将校もまた、デミアンの銃に倒れる。
彼の放った弾丸は二人のそれぞれの額を打ち抜いていた。即死だ。
「デ……」
リーナスは掠れた声を上げた。
困惑と恐怖の入り混じった瞳が、近づいてくるデミアンを捉える。
「リーナス」
デミアンは彼女の名を呼び、そしてその腫れた頬を優しく撫でた。
「デ……ミ、アン……」
その瞳を見つめ、リーナスが彼の名を呼べば、デミアンは愛おしげにリーナスに口づけを落とす。
腫れた口元が痛かったが、リーナスにはその口づけが心地よいとさえ思えた。
「リーナス、俺は」
口づけの合間に、デミアンの濡れた唇が言葉を紡いだ。
「俺は、お前を」
ドン――。
銃声が、響いた。
デミアンの身体が衝撃で跳ねる。
リーナスは思わず息を飲む。
ドン、ドン、ドン、ドン――弾が切れるまで、銃声は続いた。
そして銃声が轟く度に、デミアンの身体が跳ね上がる。
デミアンの肩越しに、硝煙の立ち上る銃を構えたシュルツの姿があった。
「――ッ」
ぐらり、とシュルツの身体が揺れる。
赤い血が、青ざめた彼の身体を染めていた。
そして冷たい床に突っ伏したシュルツは、そのまま動かなくなった。
「……デミアン」
はっとして、リーナスは自分に凭れ掛っているデミアンを呼んだ。
自分の身体を抱き締めていた力が、次第に弱くなって行くのを、リーナスははっきりと感じていた。