bittersweet 1 -1
…携帯が、けたたましい大音量で、鳴り響く。
確認しなくったって、分かる。
だって、あいつの指定着信は、そのまんまだから。
いつまでも、鳴りやまない携帯を見て、一つ、ため息。
「…はい」
「あ!もしもーし!さかぁ〜?」
「…人違いです、さようなら」
「あ〜っ、待ってーや! 俺、めっちゃ酔うてもうて、帰られへんねん!」
「知らん、ていうか、今どこなの?」
「どこって…そりゃあ、さかの家の前やで」
「帰れ!そこまで来てるんだったら、自分の家まで、帰れ!」
「いややー、もう歩かれへんねんもーん」
「…」
―ガチャ。
仕方なく、ドアを開けると、酒の匂いをプンプンさせて、ニコニコしている奴がいた。
「えへへ!きてもうた!」
「…あーもーっ! 近所迷惑だから、さっさと中に入って」
「えへへー、さすが、さかやなっ!」
ニコニコしながら、ズカズカと家に上がり込んでくる様は、まったく遠慮のかけらもない。
…あつかましい奴。
蒲田紘平。
同じサークルの先輩で、関西出身。
背は、私より少し高いくらいで、そう差はない。
…よく、二人で並んでいると、かわいいカップルだねって、いわれたものだ。
「んー、季節はずれのこたつも、案外ええもんやなぁ〜」
「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと、水飲んで帰って」
「えー、なんでそんな冷たいん、めっちゃへこむわー」
電気のついていないこたつに、足をつっこんで、横になりだした。
1つ年上の先輩なくせして、甘えたような目で、こっちを見てる。
あの目は、きっと何かを企んでいる、はず。
「なー、俺、さかの入れた、コーヒー飲みたい」
やっぱり。
「…水、飲め」
「いややー、コーヒー飲むんやー」
…まるで、駄々をこねる小さい子どものように、ゴロゴロ転がっている。
こーへい君は、言い出したら、きかない。
ハーッとため息をつきながら、重い腰を上げて、キッチンへ。