bittersweet 1 -3
「なー、さかぁー」
「もー今度はなんですか?」
ふっと、顔を上げると、目の前には、こーへい君がいて。
距離、近すぎ。
そう思いながらも、言葉が出てこない。
ぱっちりした、栗色の瞳。
ふぁさっとした長い睫毛に、スッとした鼻だちは、そこいらへんの女の子よりも、可愛らしい。
まさに、童顔とは、こんな顔を言うのだろう。
その可愛らしい顔は、男、女に限らず、年上に好かれる。
「−ふっ…!!」
そんなことを考えていたら、いつの間にか、私たちにあった距離はなくなっていて。
最初は優しく、啄むように。
そして、それはだんだんと、激しくなって、息するのも難しくなってきて。
最後は、全部食べられちゃうんじゃないかって、思うくらい。
降り注ぐキスの雨は、前と一つも変わらない。
私を慈しむように、そして、まるで…愛おしむように。
―だめ。
このままだと、私、勘違いしてしまいそう。
そう思いつつも、いつも、自分に都合のいい錯覚に囚われそうになる。
こーへい君が、まだ、私の事好きでいてくれているような、錯覚。
ーそんな幸せな錯覚。
唇を離される頃には、意識はとろん、としてしまって。
簡単に、あの頃の気持ちに、引き戻される。
「…な、さかから、キスしてくれへんの?」
ニッと笑いながら、私にキスの催促。
先ほどのキスで、ぼんやりとする頭には、抵抗の文字のひとつも浮かばない。
唇がふれる直前まで、しっかりと、こーへい君をみつめて、そっと唇を重ねた。
―好き。
トクン、と私の胸が鳴った。
やっぱり、好きなの。
唇を離して見上げると、こーへい君は、とても嬉しそうで。
「やっぱ、さかのキスの仕方、好きやわ。
なんか、こう、身を捧げるみたいな仕方」
「…なにそれ」
私を抱きしめながら、そう呟く、こーへい君。
あきれながら、少し睨んでみる。
しかし、ギュッと、こーへい君は、私を抱きしめたまま、離してくれそうもない。