嘘-1
天下太平、現代の日本では時折街中にて現実から剥離した怪人に出会う。
街の中央街に相応しい、新しい色合いのアスファルトの広場に行き交う大勢の通行人の中に唯二人。
流れの中で見詰め合う。
私と君。
君は言ったね、嘘つきは地獄に落ちる、と。
何故君と出会ったか？ それは私と待ち合わせたから。 何故そんな台詞を言われたのか？ それは私が約束を違えたから。
いや、そんなことはどうでもいい。 重要な事は君と私が出会ったという事実。
いや、それもまた違う。 重要な事は君が私に出会ってしまったという事実。
君の眼は私の眼に訴えかける、些か呆れに近い怒りを。 でもそんな事は慣れている。
そう、私は嘘つきだから。
君の言う通り地獄に墜ちるべき者だから。
『出会ってしまったね。』
私の顔は困った表情を浮かべている事だろう。 君の笑顔とは対象的に。
恋人とのデートに遅刻したと言う罪に対する君の怒りは消えた。 それはいつもの事。 逢えば消えるのだ。
その一部始終を私はいつも端から見ているだけだった。
『もう、行こうよ。』
『あぁ、行こうか。』
私に微笑みかける君。 でもそれは私に対しての笑顔で無い事はわかっている。
君は私の恋人では無い。
君は私の弟の恋人だから。
私の鏡、双子とは鏡。 それは姿形だけでは無く内面も然り。
今日は四月の一日。
世の中には一日限りの嘘つき達が跋扈する日。
でも私は冗談では済まされない大罪人だから。
その先に地獄があっても、私はこの日一日だけは嘘を吐く。
『今日はどこに行きたい？』
『遊園地。』
『あれ？ 珍しい。 てか、俺もお前も遊園地嫌いじゃん。』
『お兄さんは好きでしょ？ いつも弟さんから聞いてるよ。 今日は私も嘘つき。』
そう言って、君は笑う。
君も嘘つき、私も嘘つき。
行く果てに地獄が待とうとも、私に後悔は無い。
今日一日、私は嘘を吐く。
―――完―――