エンジェル・ダストD-1
「まったく。今日からおまえと同居とはな…」
ビルの地下で賊と一戦交えた翌日。ルノー4は恭一の住まいから五島のアパートへ向かっていた。
「仕方ないだろう。人殺しなんて何とも思わん連中だからな。単独行動はヤバ過ぎる」
言い含める恭一の言葉に五島は、未だ納得いかない仏頂面で思わず口走った。
「女との同棲が終わったばかりなのに…」
五島は顔に──しまった!─という後悔のシワを目元に浮べ、慌てて弁解する。
「すまん。つい、言い過ぎた…」
恭一は、運転に前を向いたまま小さく笑う。
「とりあえず、これまで集めた断片的な情報の整理と、それらを繋なぐ情報を得るのが先決だな」
五島は表情を和らげた。
「ああ。最終的にどんな絵に仕上がるかだが。──なんとか金に結び付かんかなあ?」
「まあ無理だな。さっきも言ったろう。──いのち有っての…─だろからな」
「だな…」
しかし、金で得られぬモノはある──エキサイティングな日常。
ルノー4は途中、カップ麺や缶詰など、当面の生活に支障のないだけの食料品を買い込みアパートに到着した。
部屋には今だ同棲した女性とのなごりを留め、キレイな室内と爽やかな香りに満ちていた。
「とりあえず、大河内の助手だった間宮と朝陽新聞社の柴田を探るか…」
2人は小さなテーブルを囲み、出来あいの弁当を広げた。
「そいつらが、佐倉以上の情報を持つとは思えんな…」
互いの意見をぶつけて、仕事の方向性をすり合わせる。
「それは分からん。徒労に終わるかも知れないが、確認しないわけにもいかないしな」
「そうだな。2人の行方は調べてみよう」
「それと、例の佐藤に田中だが、防衛省データベースへの侵入は可能か?」
恭一の問いかけに、五島は渋い表情をする。
「防衛省──おそらく無理だな」
「なぜ?」
「3年前、ペンタゴン──アメリカ国防相省─では、ハッキング抑止用に新しいコンピューターシステムを導入した」
「自動的にハッキングを排除するのか?」
五島は頷く。
「ハッキングには、おおよそ共通した言語が使われている。
その言語をキャッチアップしちまうらしい」
「その精度は?」
「99,999%。それでも、1日数十万を超すアクセスからすれば、数件はハッキングがあるそうだがな」
「同じシステムを防衛省が導入したと?」
「おそらく、な…」
五島の報告に、恭一は腕組みして考え込んでしまった。
──奴らの情報を直接掴むのは無理か。
「他のネットワークを介して、たどり着くしか方法は無いだろう」
恭一は内ポケットから、佐倉の遺留品から抜き取ったメモ用紙を五島に渡した。