エンジェル・ダストD-6
──まいったな。このまま、柴田ふみに会いに行くわけにもいくまい。
「五島、そこから歩くぞ」
恭一は考えた。徒歩ならば、相手──追跡者─の特定も容易になると。
ルノー4は、公園近くにあるコインパーキングに停まった。通りにも近く人の流れも多い。いくら奴らがダーティーでも、ここでトラップを仕掛ける暴挙には出ないだろうと考えて。
「朝陽新聞社はここから2キロ。久しぶりに走るか」
陽気に語り掛ける恭一。まるで、──追いかけっこを楽しんでいるように。
「まったく。おまえと居ると、やっぱりロクな事がねえな」
毒づく五島。2人は共に走り始めた。その速度はジョギングするほど緩やかに。
しばらく走っていると2人の男が、恭一達の後方を付いて来る。
──まだまだ、素人だな。
恭一は並走する五島に、──オレが奴らを捕まえる。おまえは、合図したら全速で走れ──と言って通りから脇道へ滑り込んだ。
──今だ!
合図とともに、五島はアスファルトの路面を蹴った。前へ続く道を走り出す。
後を追う者も二手に分かれて走りだした。一気に距離を詰めず、相手が弱るのを待つ。まるでコヨーテのように。
「ハァ!、ハァ!、ハァ!」
五島は公園の遊歩道を過ぎ、路地をひた走る。その十数メートル後方を男が追って来る。
──そこまでだ!
突然、路地沿いの民家と民家の間から恭一が飛び出した。
──…!
五島の後に現れた恭一に、追って来た男は一瞬、躊躇して足が止まった。
恭一は男に向かって全速で近づく。10メートル、5メートル。
間際で路面を蹴った。宙を舞い、突き出した左ヒザが男の顔面に深く刺さる。
2人は絡まるように崩れ落ちた。恭一は素早く体制を立て直して男を見た。が、男は口から泡を吹いて路上にのびていた。
すぐに恭一を追っていた、もうひとりの男が現れたが状況を見た途端、慌てて逃げて行った。
「ふぅーーッ!」
乱れたジャケットの襟を正す恭一。
「ハァ…こいつら…何者だ?」
五島が戻って来た。冬というのに、額からは汗が流れている。
「おそらく、昨日の連中の仲間だろう。詳しくは、こいつに訊かんと分からんがな」
恭一は、路上にのびた男を先ほど飛び出した民家の横、1メートルにも満たない路地へと引きずり込んだ。
ズボンのポケットからハンカチを取り出すと、男の口許に縛り付ける。