エンジェル・ダストD-5
「教授はよくこぼしてました。──あんな夢うつつな研究に何故、我々の何倍も予算を付ける。防疫はこれから益々、その重要性を増すというのに──と…」
──こいつは新しい収穫だな。
恭一は心の中で笑った。
通常、同じ理科学系ならよほど優れた研究でも行っていない限り、大学各学部の予算に大きな差位は生まれない。
間宮がいう程──何倍という違い─。これが何を意味するのか。
「その、工学部の予算が多いのは今も?」
「私は氏の後釜で教授に就いたばかりです。予算なんて関わってませんよ」
間宮は不満気な顔で即答した。
「あんな話で参考になるのか?」
帰路。五島が問いかけた。
「おまえは、物事をひとつの角度、──大河内に当てはめて─しか見ないんだな」
恭一は、呆れ顔で答える。
「なんだい、そりゃ。褒めてんのか、けなしてんのか?」
「けなしてる。に決まってるだろ」
車内で互いが悪態をつき交わし、やがて静かになった。
「問題は予算だ。間宮が言うには今の割合になったのが4年前。これこそが重要だ」
「4年前に──何かの研究─を始めた?」
「何の研究もやっていないのに、予算を付けるほど大学は甘くない。少なくとも学長は知っているはずだ」
恭一の確信めいた言葉に、五島は頷く。
「おまえが言う事が事実なら、ひとつ、調べたら面白いかもな」
「そういう事だ」
ルノー4は大学前の通りを東へ、そして左折して朝陽新聞社を目指す。次は柴田に会うために。
「…うっとうしい奴らだな」
静かだった車内に、突然、声が響いた。バックミラーに何度も目をやる恭一に五島が訊ねる。
「尾行か?」
「ああ、今のところ3台……」
「昨夜の奴らか?」
「さあな…オレが事務所に現れないんで、行きそうな場所を張ってたんだろう」
通常、クルマの尾行は1台で追跡すると思われがちだが実際は違う。複数台で対照車を包囲するのがベストなやり方だ。
距離を取り、──同じ道や筋違いの道を併走する─相手のクルマを囲って無線連絡を互いに交せば、仮に1台が追跡に失敗しても残りでカバー出来るからだ。