エンジェル・ダストD-4
「大河内氏が亡くなった事件。それを追っていた刑事──佐倉和樹氏──は、警察内部の陰謀からこの事件を外れ殺された。という意味ですよ」
「佐倉って…事件翌日、私に事情聴取した男か?」
「そうです…」
間宮は一転、寂し気な、悲し気な、そして、憤怒──腹立たしいさ─と、様々な思いを表情に表した。
「佐倉氏は、それこそ必死に調査をしておられた。何度も此処に足を運び、氏について人間性までも調べられていた。
私を訪ねては、──必ず容疑者を挙げてみせます─が、口グセの方だった…」
間宮は俯き、首を何度も振った。やるせない思いがそうさせた。
「間宮さん。病院名と名前を教えて頂けますか?」
「北新大学病院、枝島省吾…」
デスクに突っ伏し、肩を震わせる間宮に恭一は優しく語り掛ける。
「間宮教授。ありがとうございます。これで、私達が次にやるべき事がハッキリしました」
席を立ち、その場を後にするつもりだった。
──まってくれ!
間宮から声が掛かる。──伝え切れていない事柄がまだ有ると。
「事件前日、氏はここで誰かを待ってたんですッ!」
「誰かと言うと?」
問いかけに間宮は、辛い顔を浮かべた。
「これは、警察にも言っていません。私は警備室にある、事件前日の入出記録を調べたんです」
間宮は、デスクの後ろにあるキャビネットのバインダーに挟んだ、数枚からなる書類を抜き取って恭一の面前に置いた。
「氏が前日に大学に戻ったのが午後3時過ぎ。そこから、帰宅されるまでに大学を訪れた者は36名。
その中で、氏に関係する方はひとり──築波大学の椛島教授─だけです」
書類を指差す間宮。確認する恭一は、その部分を凝視した。
「つまり、間宮さんは椛島氏が殺害に関与してると?」
「そうは言ってません。ただ、氏は亡くなる前日に椛島氏と会う約束をしていたのではと…」
「それは、大河内氏に訊いたのですか?」
「いえ。私は──お客を待っている─とだけ聞いたのです」
恭一は間宮の言葉に頷きながら、入出記録を見つめた。
すると、午後5時過ぎに帰った椛島から、遅れること1時間。工学部の竹野と大河内が同時効に帰宅している。
「ここに、竹野教授と大河内氏が同時刻に帰ってますが、2人は仲が良ろしかったのですか?」
「とんでもない!2人は同じ棟に住む者同士と言うことで、見掛けはそうでしたが、実際は──犬猿なくらい─仲は悪かったです」
間宮は質問に対し、あからさまな不快感を表情に表す。
「それは、何か理由が有るのですか?」
恭一は──何か有る─と興味を持った。
「これはオフレコですが、大学は今も、工学部には多大なる予算を付けてるんですよ。
それこそ我々、細菌、防疫学の何倍も。氏はそれが気に入らなかったのです…」
聞けば予算会議の席で、竹野と大河内の激しいやり取りは有名だったらしい。