エンジェル・ダストD-2
「なんだ?T=V、P?何の暗号だ」
「分からん。事件との関連からTは東都大を表してると思うんだが、その他はまったくの不明だ」
「じゃあ仕方ないだろう。最初の方針通り、間宮と柴田から探すしか…」
五島は、メモ用紙を恭一に突き返す。
「何か、大変な内容だと思うが…」
「根拠は?」
「オレの勘だ。佐倉は事件に関する重大な情報──おそらく、裏に蠢めく組織に繋がるモノ──を手にしたんだ」
「だから潰されたと?」
「この、暗号めいたメモが解けた時、自動的に裏の組織にたどり着き戦いも始まる」
確信に満ちた顔。
恭一はメモ用紙を握り潰し、灰皿に置くと火を付けた。
眩い光がメモ用紙を包み、炎が一瞬、高く上がった。が、すぐに小さくなり火は黒い塊に這うように変化し、やがて消えてしまった。
一連の変化を凝視しながら、恭一は頭の中で作戦──相手へのアプローチ─を考えていた。
防衛省中央司令部。
最上階にある会議室。佐藤と田中の姿があった。
そこに男がひとり、遅れて現れる。途端に2人はバネ仕掛けの人形のように席を立ち、直立不動の姿勢をとった。
「さて、と。近況報告を伺いましょうか?」
柔らかな口調。その瞳は子供のように無邪気さを湛えているが、奥底にある性格──他人を虫けらの如く思う残忍さ──も兼ね備えていた。
佐藤も田中も、彼の前では表情が硬い。
「先日、宮内が訪ねた探偵事務所ですが、探偵の名前は松嶋……」
「…そのまま、ボクに身元調査結果まで聞かせるつもりなの?」
男の口調に、報告していた佐藤の顔が恐怖に歪んだ。
「…け、結論から言いますと、我々は松嶋を監視していましたが、まんまと逃げられました。
それどころか、監視人──陸自の部隊員のひとり─が松嶋に拘束され、内情を喋った模様です」
「それは、君たちの手で処分したんでしょう?」
「それは間違いなく…」
男の顔は、先ほどと変わらず笑っている。
「──で?これからどうするの」
俯く佐藤に田中。額には汗が滲んでいる。
「げ、現在は今後、松嶋達が訪れるであろう場所の監視体制を…」
──バンッ!。
男の平手が机を殴り付けた。
身をすくめた佐藤は、言葉を失ってしまった。
「要は──捕まえたら然るべき対処を行う──だろ?」
「は、はいッ!」
男は席を立ち上がり、ため息を吐く──あからさまな落胆の模様。
「君たちは、いちいち私が指示してやらないと何ひとつ出来ないんだねえ?」
侮蔑の眼差しが佐藤、田中に注がれた。
「そんな人間なら、たくさん居るんだよね。ボクもあまり忍耐強い方じゃないからさ」
「申し訳ありませんッ!今後は、次官の意向に沿って進めてまいりますので!」
佐藤と田中は深く頭を垂れた。
──降ろされれば地獄─と、恐怖におののきながら。
「そうあって欲しいね」
男は、言葉を残して会議室を後にした。