エンジェル・ダストD-11
「蘭英美です」
その瞳は知性を感じさせる。
「蘭、松嶋さん達を客室に案内してくれ」
蘭の案内で、恭一達は離れにある一室に通された。ビクトリア調のインテリアで統一された部屋は広く、リビングだけでも15坪はある。
「なんとも…こりゃ」
五島は唖然といった表情で部屋を見回した。──ある処にゃ有るもんだ。
「蘭さん」
恭一は蘭の方を見た。
「私達はこれから、あなたに多大な迷惑をお掛けすると思います」
蘭の口許に笑みが浮かぶ。
「何でも仰って下さい。出来る限り手配致しますから」
「早速ですが、ジグザウエルP230jpをお願いしたい」
ジグザウエルP230jp──公安の制式拳銃。
蘭の知的な瞳に狼狽が映った。
「それを、どうされるんです?」
「護身用ですよ。なにしろ危険な奴らと渡り合うわけですから」
恭一は、蘭の顔をジッと見つめた。彼女はすぐに元に戻ると、
「…分かりました。すぐに手配します。他には?」
「蘭さん、この部屋にパソコンは?」
今度は五島が訊ねた。
「奥の部屋に、メインコンピュータの端末が有りますから、ご自由にお使い下さい」
蘭は、そう言い残すと部屋から出て行った。
「いるもんだなァ、あんな美人が」
五島が首を振り々、ため息を吐く。
「キレイなだけじゃない。北京大学で経済学を学び、アメリカのモーガン・スクールで経営学も学んでいる。
李が武器売買で儲けた使えない金を使える金に変える──マネーローンダリング──やヘッジファンドを取り仕切ってるのが彼女だ」
「やけに詳しいな」
「李を逮捕するために内偵調査で色々とな…」
「それが今じゃ──客人─か…」
「目的のためには仕方あるまい。それよりも、オレは明日にも椛島を訪ねに行くから、後は頼むぞ」
「ああ、やれる事をすべて調べてやるよ」
──佐倉さん、待ってろよ。
ようやく足場を固めた恭一。明日からの事に希望が見えた一日だった。
…「エンジェル・ダスト」D完…