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梔子
【エッセイ/詩 恋愛小説】

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梔子-1

いつも通る道に面している家の庭に、梔子が植えてある。

甘くて懐かしい香り。白くて肉厚な花びら。

マドカは梔子の香りと花が好きだ。

この道を通るようになるまで、梔子の香りや花に触れたことはあまりなかった。

しかし、歩いていると何処となく香ってくる梔子に、マドカは一瞬にして心を奪われた。


包み込むような優しさの香りに、マドカは何故か母を重ねる。

実家を離れ一人暮らしを始めてから早8年。

母の温もりを忘れたわけではないが、一人暮らしし始めたころよりも、恋しく思い始めていた。

いつも、家族を想う。出社する時、帰宅する時、家事をしてる時。

両親や兄弟を想うのだが、マドカは早く「自分の」家族がほしい。

自分も梔子のような存在になりたい。

そうしたら、自分も家族を作れるだろう。

しかし、いい人がいるわけでもない。自分から探すわけでもない。

小さいころに夢見ていた冒険や煌めくような出来事は起こるはずもなく、

淡々と過ぎていく日々に疑問を持ち始めていた。


梔子の香りをかぐと、そういった思考は取り除かれ、自分の心だけがそこにあるように感じた。

マドカにとっては魔法の花だ。


いつものように仕事で遅くなった帰り道、

黒い夜に白く咲き誇る梔子の花の前でマドカは立ち止まった。

そして周りを少し見回してから花を一厘手に取り、もぎ取る。

咲き誇るための力を奪うことであっても、マドカはその花を手に入れたかった。



ああ。とてもいい香り。
どうしてこんなに心を落ち着かせてくれるのか。
こんな花に出会えるなんて。
梔子が私の運命の相手かもしれない。


肉厚の花びらが手に馴染んで、心地よさを倍にさせる。

顔に近づけてよく匂いをかぎ、頬ずりをした。


「私は、幸せ者。」


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