其是-それこれ--1
「ところで、是は 何?」
汚い物のように摘まれた女物のハンカチ。是は明らかに彼女の物ではない。
「あれ。なんだ其。知らないなぁ」
「あー白々しい白を切って。何もかも真っ白けだよ本当。」
彼女は横目で、最高の悪意を表し彼を見つめた。
「・・・」
彼はその空気に押しつぶされそうになり、何も言えなかった。
「じゃあ、今最高の言い逃れをしたら、今回だけは許してあげる。
でも、次は本当にないよ。言い逃れが出来なかったら、これで御仕舞ね。」
これはチャンスだ。そのハンカチの本当の持ち主へは特に思い入れもない。彼は必死で考えた。
「あー。んー。」
相当の無茶振りなのを忘れて、彼は考え続けた。
「其だ。ほら、其。」
「其?どれさ」
「其だよ。わからないのか?」
「ああん?」
「其?其だっけ・・・」
「何の事を言ってるの?」
「だから、其だよ。其しかない。いや!」
「・・・は?」
「やっぱり・・・・もう、是しかないな。」
「其?是?っていうか、何よ。もう。意味わからん。」
「御免。」
「え?」
「謝るしかないよな。もう二度と、こんなことはしないよ。
こんな嫌な思いをさせるし、嫌な思いをするのに。一時の気の迷いで傷つけて、本当に御免。」
「・・・・・・・・・はい、駄目ー」
「えええぇぇeeee!?」
「『言い逃れ』になっとらん。」
彼女はニヤニヤしながらいった。
「そんな・・・」
彼女は当然のように帰る支度をしだした。彼は思わず立ち上がる。
しかしふと支度する手を止め、くるっと彼の方を向いた。
「うそだよ。正直に言ってくれて、ありがとう。ちゃんと信じるから、もう裏切らないで。」
「うん。」
「で、其是言ってた選択肢は、他に何があったの?」
「あー。・・・・・秘密。」
「うわもう是だもの。何も無いくせにそういうこと言う。秘密と嘘は嫌いじゃ!」
「御免て。許しておくれ」
そう言いながら二人はくっついて座り、じゃれ合った。