やっぱすっきゃねん!VF-5
「相変わらず遅いヤツだな」
皮肉混じりな直也の口ぶりに、佳代はしたり顔で近づくと、
「期末テストで頭抱えてたヤツに言われたくないね!」
「う、うるせえよバカッ!」
「期末の結果が悪かったら、大会どころじゃないんだよ!あんた、分かってる?」
「分かったよ!帰ったらやるから」
「大会始まって──エースは補習で来れません─なんて恥ずかしくて言えないからね!」
漫才のような掛け合いに、周りもクスクスと笑っている。
「おまえに掛かっちゃ直也もカタ無しだな」
達也が苦笑いを浮かべて訊いた。
「当たり前じゃない!コイツに言い負けるなんてくやしいもん」
晴れ間が見えた。公園を温かな風がゆるりと吹いていた。
仲間と練習を繰り返す佳代。彼女にとって、最後の夏はすぐそこに迫っていた。
───
期末テスト期間も終わり、大会前に行われる最後の練習試合を迎えた。が、外は雨模様。それも土砂降りで、いっこうに止む気配が無い。
「まいったな…」
監督の永井は困っていた。
──これでは、練習試合が出来ないな。
「仕方ない。本日は予定を変更し、基礎トレーニングを行う」
要は校舎や渡り廊下などの屋内で出来る練習のみとなった。
アヒル歩き──しゃがんだ姿勢で前に進む─や、四股、階段駆け上がりや廊下をダッシュして、腕立て、腹筋、背筋、バットの素振りをこなしていく。
昼を過ぎても雨は止みそうになかった。ひと通りの練習を終え、永井に葛城、一哉の指導者達は、──これ以上は無理─と、判断して練習を終了にした。
──結局、ぶっつけ本番か…。
周りが喜ぶ中、佳代は落胆する。ピッチャーとして経験を積むチャンスを逸してしまった。
仕方なく保健室で着替えていると、葛城が慌てた様子で入ってきた。
「あ、お疲れさまです!」
条件反射のように挨拶する佳代に葛城が言った。
「さっき、藤野コーチが探してたわよ」
「エッ、コーチが?」
佳代は──なんだろう─という顔を葛城に向けた。
「ええ。何か用事があるみたいよ」
「分かりました!」
佳代は着替えを中途にして、保健室を出て行った。
「コーチッ!」
Tシャツにユニフォーム姿でグランドの方へ駆けていく。姿を見つけた一哉は笑顔を向けた。