やっぱすっきゃねん!VF-14
「こんな、春高バレーが似合ってると?」
直也に対し、一哉は笑顔で答えた。
「ああ、似合ってる。それに、大会に向けて一新しようという気合いも感じる」
そして、こうも付け加えた。
「いつまで経っても、気持ちを進展させない誰かとは、えらい違いだな」
この途端、直也は口をつぐみ顔を真っ赤に染めた。一哉の皮肉が何について言ってるのか分かったのだ。
一哉は話題を変えた。
「ところで、ここで校歌を歌ってくれないか?」
部員達は、無茶なフリにざわめいた。
「コーチ、校歌って…」
佳代が驚きの表情で訊ねる。
「オレも青葉中を卒業して13年になる。もう、校歌も忘れちまった。いっちょ、聴かせてくれないか?」
一哉の頼みに、部員達はイスを立って真ん中に集まる。短い打ち合わせの後、皆が席に戻るとキャプテンの達也が一哉の方を向いた。
「それじゃコーチ、聴いてて下さいよ!」
達也の──せーの!─という調子に合わせて、部員達の校歌斉唱が始まった。
子供達の歌声がバスの中に響き渡る。一哉は終始笑顔をふりまき、手拍子を叩いて調子を取った。
車内に、穏やかな時間だけが流れていた。
総合運動公園野球場。
開会式に並ぶ地区30あまりの学校。スタンドは、各学校関係者で埋め尽されていた。
そんな中に立つ青葉中野球部。
──今年はここで終わらない。私達は、先に行く必要があるんだ。控え部員、監督やコーチ、母さんに父さん、尚ちゃん、有理ちゃん。私が此処に立ってられるのは、皆んなのおかげだ──。
佳代に昨年のような夢心地な気分はない。たぎる想いを内に秘めていた。
開会式を終えた第1試合。
30分後の開始に向け、式の後片付けに勤む関係者を他所に、青葉中の選手は1塁側ファウル・ゾーンでアップを繰り返す。
「ち、ちょっと、アレッ!」
誰かが、3塁側の東海中ベンチを指差した。皆もつられて顔を向けた。
──あ…あれは…。
永井の口から驚きの声が漏れた。東海中の選手がアップを行っているベンチ前で、周りに檄を飛ばしている監督。
──あれは、榊さん。
青葉中野球部の前監督、榊。
運命の悪戯としか思えないシチュエーション。永井は身震を覚えた。
…「やっぱすっきゃねん!V」F完…