やっぱすっきゃねん!VF-12
「あの夏、3回戦で神奈川のチームと当たった。相手ピッチャーも1年生エースでした……」
一哉達はその試合に勝利した。
その中で学年も同じという事もあり、相手ピッチャー──高梨─と仲良くなった。同じような立場という事で、連絡を取り合い互いを励まし合った。
一哉の方は怪我──ヒザの靭帯断裂─で、卒業までマウンドに立たなかったが、高梨は春、夏通じて4度の甲子園出場を果たし、2度の準優勝に輝いた。
そして、高梨はプロから誘いを受ける。
「ところが、ドラフトに高梨の名は挙がらなかった。
奴は私に言った。──社会人で2年間頑張ってくる─と…。
だが、高梨の肩は限界を超えていた。社会人で肩を壊し、野球人生にムリヤリ幕を下ろさざるをえなかった…」
──そういうことか。
細かいトレーニング・スケジュール、ピッチャーへの球数制限等。
異常とも思えるリハビリや栄養学に対する深い知識。その一方で、どこか突き離した野球への情熱。
──すべての原点は彼の友人にあったのか。
「藤野さん、任せて下さい。あなたの教えてくれた事は必ず、野球部の指針として守っていきます」
永井は、初めて一哉の想い──心の襞─に触れた思いがした。
───
大会前日。
その日、野球部はオフとなった。
「あ〜、やる事がないなあ〜」
昼。佳代は修と2人で昼食を摂り、リビングでテレビを眺めていた。が、土曜日の昼間だから大した番組もない。
「姉ちゃんさあ、髪、伸ばすの?」
──唐突な弟の問いかけ。
「別に、そんなつもりも無いけど…」
「明日から大会だろ。思い切って切ったら?」
──いわれてみれば、ピッチング練習や期末テストに神経が行ってたな…。
髪に触ってみる。後ろが肩に掛る位に伸びていた。
「そうだね!カットしてこよう」
前髪をひと束摘み上げ、笑顔を修に向けた。
「そうだよ!何つっても、最後の年なんだから」
電話口に向かい、さっそく、行きつけの理髪店に連絡を入れると、
「修、今なら空いてるって!ちょっと行ってくるね」
「ウンッ!行ってらっしゃい」
佳代は自室から財布を持ち出して、慌てて玄関を出て行った。
──やれやれ、これで、しばらくは静かだな。
修はリビングの床に寝転がり、大きな伸びをした。