やっぱすっきゃねん!VF-11
夜。永井と一哉は馴染みの焼き鳥屋を訪れていた。
「いよいよ、明後日になりましたよッ!」
「永井さん。今日はずいぶんとピッチが速いですね」
永井は満面の笑みでジョッキを傾ける。その日の飲みっぷりは一哉も心配するほどだ。
席に着いた途端、1杯目のビールジョッキを一気に空けたかと思うと、30分後には3杯目のジョッキが空になっていた。
「──遂に完成した。という心境なんですよ」
4杯目のジョッキを傾け、嬉しそうに喉を鳴らす永井。頬から首筋までが、赤く染まっている。
「チームの事ですか?」
一哉は2杯目のジョッキに口を付けただけで、永井の想いを導き出そうとした。
「走、攻、守のすべてが噛み合ってる!特に5人のピッチャーすべてが調子が良いんです!」
永井は、──我が意を得たり。とばかりに、酔いに任せて思ったままを口にする。
「それは良かった。私も、スタンドで応援してますから」
一哉は笑顔を向けると、ジョッキを傾けて、半分ほどを一気に飲んだ。
「…そういえば」
永井は小さな目、アルコールでむくんだ目を一哉に向けた。
「ウチは昨年が4人、今年は5人のピッチャーで大会に挑みます。
ところが、他校に訊いたら、ほとんどが先発、控えで2〜3人だそうで。
おまけに、ウチは連投を極力避けている。これは、何か理由があるのですか?」
一哉は、少し考えるふりをして、ひと言づつ確かめるように語り出した。
「…高野連、並びにその遵守達へのささやかな抵抗です」
「抵抗?」
一哉は頷いた。
「奴らの頭にあるのは、選手の身体への心配でなく──金─だって事です。
社会人でさえピッチャーの連投を禁じているのに、大会終盤になると3連投は当たり前。
身体の出来ていない子供に、こんな事を強いれば潰れるのは当たり前です。
これまで何人の才能ある子供が犠牲になったか…」
「しかし、その中からもスターは出て来たんですから…」
永井は、高野連──高校野球─の必要性を説いた。
「アメリカでは、年齢によりピッチャーの投球制限が有るんですよ。12歳〜18歳の間は30球〜80球以内と。
それぞれ、リミットまで投げたら必ずメディカル・チェックを受け、中3日は絶対試合では投げれない。
大学生になって初めて100球投げる事が許される」
永井は少し驚いていた。一哉がこれほどの思い──高野連への反発─を持っているとは思いもしなかったからだ。
「榊さんも同じ想いなんですよ。──部員はひとりとして潰さない──その一貫として、先発ピッチャーの連投はやらせない。
だからピッチャーを増やすんです」
そこまで一気に話し、ふと、遠い目をした。