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密心
【ファンタジー 官能小説】

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密心〜みそかのい〜-1

蔵ノ介さまが来られぬようになってずいぶん久しく……菓子はもう絶えてしまった

心許なく過ごすまま、女将も以前の一件から遠慮をなされているのか…客もとらず、私は本当に遊女なのかと思う日々を過ごしている


身請け、を……断ったのがよくなかった、の、だ…とはわかって、いる

すっかり馴染んだ姐さん方には心配されたり……慰められるように渡される菓子もどこか蔵ノ介さまからいただくものより味気なく、なのに思い出してはさみしくなるばかりだ


でも身請けを断ったこと、後悔は……していない
しちゃいけない

私が遊廓花街から逃げ出さなかったのは、ひとえに牡丹花魁のお陰であるのだから

――母のように
――姉のように

そう慕う牡丹花魁がいらっしゃらなければ、私はこの街で……生きてゆけなかったから


身請けされれば、牡丹花魁にはもう会えぬのだろうと思えば……蔵ノ介さまの手は素直にとれなかった


簡単になんて、――とれるはずなかった



救ってくれた恋しい人

育ててくれた慕う人

どちらかを選ぶなど……できるはずもなかった

どちらかを選ばねばならぬなら、今のままでいたい


ずるくそう思った


ずるいだなんて自らがいちばんわかっていた


ただ蔵ノ介さまが与えてくださった熱だけが熱く燻るように、私の身を焼く

あの方を求めて


なのに私はこんなにもずるい

「みそか、……ホンにええんかぇ?」
「え……?」
牡丹姐さんの言葉に心を見透かされたようだった
びくり、と胸が軋んだ

「馴染みの旦那づてに聞き遊びんしたんよ……甘味の君、蔵ノ介さまな、……近く、ご婚約の契りを交わされるんやて」


そう……、蔵ノ介さまが、誰か他の方と契ると聞くまでは……

私は生ぬるい夢をみていた

このままでいられるなんて生ぬるい夢を


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