人間×半分人間-1
僕のクラスには鏡人間がいる。
他にも時計人間やテレビ人間や電話人間やカレンダー人間やパソコン人間がいる。最近、電話人間のミキさんは凄くカッコ良く頭も良くなっているので、『半分人間』の中では一番人気がある。
でも、それでも、僕は鏡人間のアスミちゃんが好きだった。ただ愚直に姿を映す、その不器用さが、……なんだか。
『半分人間』と言っても、見た目は僕達と変わらない。電話人間のミキさんは最近ジャラジャラとアクセサリーを付けたり、体にタトゥーを入れたりととてもオシャレだ。『すとらっぷ』を付けてるらしい。学校の先生には怒られていたが、そういう先生こそケータイにジャラジャラストラップを付けてるので説得力がない。
アスミちゃんに声をかけてみる。
「宿題やってきた?」
「う、うん」
もじもじ。こういうところが可愛いって思うんだ。
「見せてくれる? 僕忘れちゃって」
「う、うん、いいよ」
もじもじ。やっぱり可愛い。
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「なあなあ知ってる?」
クラスメートが噂してる。
「アスミ、あんな顔してやりまくってるって噂」
「聞いた聞いた。誰からでも絶対断らねえって」
僕は当たり前のように無視した。
「待った?」
待ちに待ったアスミちゃんとの初デートだ。
僕の理想通りの、可愛いおしゃれな格好。
「行こっか」
僕の理想通りの、可愛い仕草。
「キス、しよっか」
僕の理想通りの、展開――
「きゃっ!?」
僕は異様な怒りに襲われ、アスミちゃんのスカートを、暴力の衝動に任せ、無理矢理に脱がせる。
「何っ……!?」
アスミちゃんのお腹に埋め込まれた鏡。
こちらの理想をそのまま映し出す、絶対裏切らない鏡。
パリン バリン
殴る。割る。割る。鏡の欠片はやっぱり鏡で僕をいくつも映し出す。
いくつもの僕がいる。
優しい僕も、醜い僕も。
全部、全部が僕なんだ。
アスミちゃんは、それから少し変わった。
ただ都合のいいことだけを映す鏡人間じゃなくなったから。
鏡人間としては致命的かもしれない。だけど。
「宿題、見せてくれない? 僕、忘れちゃって」
「ダメ。だって、割れた鏡は都合のいいことだけは映せないもの」
僕はやっぱり、アスミちゃんが好きなんだ。