追憶-1
柔らかい柔らかい水晶の羽根は、
冷たい冷たい焔の中で、
くるくる廻って永遠に掴めない――
「げほげほ」
「あは、まあ初めてはそんなもんだよね」
「……まずい。なんでこんなもん吸うんだお前」
「なんでかな? タバコのキッカケも覚えてないし。自分はわかんないみたい」
「ふーん」
「でさ、帰ってくれる?」
「久しぶりに会ったやつにそんなこと言うか?」
「ここは生きてる人間の来るとこじゃないよ?」
「俺、死んだんじゃないの?」
「んー、多分まだ戻れるじゃないかな」
「戻り方がわからん」
「戻りたくないの?」
「よくわからねぇな」
「じゃ、戻ろ? あたしは戻れないけど」
「……なんで?」
「わかるんだ、戻れないって」
「…………」
「ごめん」
「……」
「言いたいことあるならさ、今言おうよ。言えずに二度と会えないこと、あるんだからさ」
「お前は……お前なんだよな?」
「……どうなんだろ? あんたの妄想かもしれない。あんたの中にいる、記憶が作り出したあたし。でも、あんたにはその違いはわからない。ならどちらでもいいでしょ?」
「よくわからん。けどわかった……」
「ん」
「……良いのか?」
「全然」
「…………そっか」
「――――」
「俺、生きるよ。生きてくよ」
「そっか。あたしは許さないから。頑張って、殺人犯」
…………。
(そっか。夢か)
今日は、俺が起こした交通事故の被害者の、命日だった。
柔らかい柔らかい水晶の羽根は、
冷たい冷たい焔の中で、
生きる生きる死体が踊り、
叶わぬ叶わぬ願いを叫ぶ、
それは現実に戻るための追憶と、
断罪の為の夢芝居。