電波天使と毒舌巫女の不可思議事件簿 ―追憶編―-2
真琴が八歳の時、真琴は両親と共に海外旅行に出掛けた。
初めての海外旅行で、初めての飛行機。何もかもが新鮮で、窓から見る雲の海は、夜闇の中、月明かりで白く浮かび、神秘的で、いつまでも眺めていたかった。
だけど唐突に視界は赤く染まる。まず音が、体を揺らした。眠っていた他の乗客も一斉に起き、パニックが起きた。
「父さん、母さん!?」
スチュワーデス(この頃はそう呼んでた)が落ち着くように、といったようなことを言ってたみたいだが、パニックになった乗客は、重なる爆音に更なるパニックを呼ぶ。
「真琴、ごめん、ごめんね」
母の泣きながらの謝罪は、未だに何に対してかわからなくて、だからこそ強く印象に残っている。
「目を瞑りなさい!」
普段は穏やかな父の怒鳴り声に、反射で目を瞑る。
衝撃。
飛行機は墜落した。
エンジンから炎を吐き散らして。
「あなた……あなた!!」
母は泣き叫びながら、真琴を。
真琴と母を炎と鉄の欠片から身を挺して護った、父を呼んでいた。
「……逃げ……なさい」
真琴は泣くばかりで、母も父を残して逃げるなんて、とても出来ないと、拒絶していた。だけど、
「早く!!」
父は命の灯火が消えようとしているのに、母娘を叱咤したのだ。
母は真琴を抱えて、泣きながら炎と爆発から逃げる。
その間もずっと母は、謝っていた。父を置いて逃げ出したから? 真琴は未だに母のごめんなさいの意味が分からない。
しばらくして、母は立ち止まる。母は言った。
「ごめんね、真琴……お母さん、行かなきゃ」
どこに行くの? そう訊けたかは、悪夢を見た時のように記憶が曖昧で、分からない。
だけども母の顔に、決意と覚悟があったことだけは、目に焼き付いていて――
真琴は その飛行機事故の唯一の生存者となった。
明日はその事故が起きた、両親の命日だ。