『スイッチ』side boy-3
おいしそうにふわーっと煙を吐き出す姿だけみると、ほんとに年下かと思うほど色っぽい。
天野さんから飲みに誘われただとか、今日の職場での話を表情ころころ変えながら離す彼女を見ているだけで、胸のあたりがあったかくなる。
喋りつくしたと満足気に彼女の口が止まった頃を見計らって、ずっと怖くて聞けなかった質問。
「彼氏とかつくんないの?」
さりげなく、さりげなく。世間話の延長みたいに聞けただろうか。
聞いたのは僕なのに、返答を聞くのが怖くて、動揺して声が震えてしまいそうだから思い切りメンソールを吸い込む。
「や、つくるもなにも、相手いないもん」
ホッとして漏れたため息がばれないように、ゆっくりと煙を吐き出してみる。
「いい女なのに、もったいない」
くりっとした大きな目に、高い鼻筋、ぷるっとした唇。
女の子だけどすらっとした身長に、真っ白な肌。華奢なのに、柔らかそうな女の子してるスタイル。
少し低めの声で、スマートな会話も、聞き役もお上手で。ちょっと姉御肌なところもいい。
「しんちゃんは?」
「うーん、僕は彼女ほしいな」
「つくんないの?」
例えばそう、目の前のキミなら最高。
なんて言えないヘタレな僕は、同じく相手がいませんなんて言ってしまう。
「好きな人いないの?」
「んーどうでしょう、あたし常に誰かにキュンしてるよ」
「僕にも?」
「うん」
いい男にときめかないと女捨てちゃいそうだものって、にひひと笑う無邪気な笑顔に、僕がキュンとしちゃうじゃないか。
何本目かのタバコをもみ消して、お腹すいたねーとキッチンのスープが気になる様子。
「スープ待ちながら、先食べちゃおうか」
「賛成!」
ソテーを温めなおす僕に、お酒残ってるけど飲む?って二人分のコップを用意してるゆきちゃん。
「のんべぇだね」
「人のこといえないじゃん、しんちゃん」
「それもそうか」
桜が咲いたらお花見パーティもいいよねなんて彼女が言うから、時期がきたら誘ってみようとこっそり頭の中でメモしてる僕がいる。
一人暮らしのありあわせ料理もたまにはいいでしょって話しながら、少し大目の量をきれいに食べ終って。
座ってていいよと何度もいうのに、食べたら動かなきゃ肉がつく!って言い張って、後片付けは仕方なしに譲った。
「ゆきちー、シャワー借りていい?」
「帰んないの?」
「もうバスないよ、この時間」
本当は走れば間に合うけれど、この雰囲気をもう少しだけ味わっていたいという僕のワガママ。
「あ、そうか。じゃタオルだしとくね」
ちょっと困った顔をして、それでも承諾してくれたことにほっとする。
今日は心臓がいくつあっても足りない。
にやけてしまう顔を引き締めたくて、わざと冷たいシャワーを頭からかぶる。冷たさに真顔になるけど、それも一瞬だ。
強引過ぎたと反省する気持ちと、強気に出られた自分を褒め称えたい気持ちと。
ゆるく体をめぐるアルコールのせいなのか、普段の自分じゃ考えられない行動がことごとく受け入れられたからか、ちょっとだけ気持ちが大きくなってる。
一目惚れに近かった。