「あいつ」-1
「鷹にやられたと思ったあいつが
ついに帰ってきたんだ!!」
5日前に北海道でスタートした
レース鳩の1000キロレース
オレは3度目の優勝を目指して
今回もエントリーしていた
しかし、俺の鳩が戻ったのは
スタートしてから3日後だった…
速い鳩は、1000キロを
一日で戻って来るのである
80キロ前後のスピードで
飛び続けるレース鳩
鳩小屋に傷ついて戻ったモコ
鷹に狙われたのだろうか?
つぶらな瞳で俺を見る
「1000キロよく頑張ったな!!」
俺は傷だらけで戻ったモコに
優しく声を掛けて頭を撫でた
レースに使われる鳩と
公園などにいる土鳩では骨格から違う
レース鳩は太く、ガッチリしている
脚も太くて頑丈で、くちばしは太くて短い
レース鳩は数世紀の長きにわたり
改良淘汰が行われ、帰巣能力と飛翔能力が
公園などにいる鳩と比べ物にならないのだ
レース鳩は、1000キロもの距離を
命を懸けてご主人の事だけを
考え飛び続けて戻ってくる
そんな鳩が俺は可愛くてしょうがない
しかし、俺には矛盾もある
レースと言うのは鷹などに
襲われる危険性も十分有り
鳩が1000キロ飛んでる間に
どれほどの危険が有るのかも俺は知っている
鳩を愛すればこそ、その鳩と危険を共にしたい
自分が愛する鳩の優秀さを
死の危険にさらしてでも示したい
そんな名誉欲、顕示欲も確かにある
だから、1000キロを飛んで戻った鳩は
可愛くてしょうがないのだ