『スイッチ』-2
「スープできるまで、ちょっと休憩しよう?」
「へいへい」
ちょうど一服したかったし、つきっきりだからってたまねぎがとけるわけでもない。
灰皿を用意してるしんちゃんの向かいに座って、お先にぷはーと煙を吐き出す。
「ゆきち、最近どうなの?」
「うん?」
「いや、彼氏とかつくんないの?」
しんちゃんの吸ってるメンソールの香りがふわり。
そりゃ、20代前半の男女だもの、人の色恋沙汰って気になるよね。
「や、つくるもなにも、相手いないもん」
「いい女なのに、もったいない」
ふーと煙を吐きながら、つまらなそうに言わないでください。
「しんちゃんは?」
とびっきりのイケメンじゃないけど、顔はいい。背だって女子の割りにすくすく成長したあたしより高いし、性格もいい。
…ふつーにモテそう。
「うーん、僕は彼女ほしいな」
「つくんないの?」
「ゆきちと同じだもん」
「あ、そうですか…」
今度はあたしがつまらない顔をする番だ。
「好きな人いないの?」
「んーどうでしょう、あたし常に誰かにキュンしてるよ」
これは本当。いい男見るときゅんとする。
「僕にも?」
「うん」
「そっかぁ」
嬉しそうににっこり笑ってから、お腹すいたと食事の催促。
バラエティ番組に時々笑い、前に買い込んでたお酒の残りも飲みながら、ちょっとさめちゃった遅い晩御飯。
準備はしんちゃんがしてくれたから、後片付けはあたしの仕事。
「ゆきちー、シャワー借りていい?」
チューハイの空き缶片手に、当たり前のように聞いてくるけど、ちょっと待て。
「帰んないの?」
「もうバスないよ、この時間」
しれっというなよ。
「あ、そうか。じゃタオルだしとくね」
ありがとうっていいながら、昨日寝る時用に貸したあたしのスウェット片手に通り過ぎる。
図々しいって思うより、ほんわり嬉しくなるのは、あたしがちょっとしんちゃんをいいなーと思っているからだ。
告白する勇気はない。
別に今まで恋愛したことがないわけじゃない、人並みよりは多いかもしれない。長続きしないのだ、あたしの恋愛は。
人肌恋しくて彼氏がほしくなるときもあるけど、しんちゃん相手にそんなことはできない。というか、したくない。
脱ぎっぱなしで洗濯籠にかけてあるしんちゃんの服にバスタオルをかぶせたら、自然とため息がもれる。
(気まずくなるのは、いやなのよね…)
自分に自信がない。見た目はたぶん人並み、スタイルが特別いいわけじゃない。落ち着いてるとか、大人っぽいとか、年齢の割りにはジンセーケーケン豊富みたいで話題には困らないくらい。
自信のない顔した女の子が、洗面台の鏡から不安たっぷりに見つめ返してくる。
「ゆきち?」
気づいたら止まっていた水音。ちょっとだけ開けたドアの隙間からしんちゃんが顔を出している。
「あ、ごめん、タオル出しといたから」
慌ててタオルを開いた隙間にねじ込んで、リビングに逃げる。
「ありがとー」
しんちゃんはくすくす笑いながら受け取って、律儀にドアを閉めた。
入れ替わりであたしもシャワーを浴びて、別のスウェットに着替えてリラックス。