ネコ系女 #1-1
ネコは可愛い。動物の中でもダントツに可愛い。
綺麗な瞳に滑らかな体毛。しなやかな体で自信たっぷりに胸を張りながら歩く姿は本当に綺麗。
気分屋で自己中な性格もネコだから許せる。
絶妙のタイミングで時折魅せる甘えた態度が全てを無にする。むしろプラス。
人間で言うところの小悪魔ってやつだろう。
その美しい姿で全てを魅了する。
それが私、橋田 朝希。自称ネコ系女。
「ねぇ、朝希。あれ見て」
暇で暇でしょうがない平日の午後。店にもお客さんは一人もいない。
そんな時、同期の一之宮 姫代が私の肩を叩いた。
「何よ?」
「ほらあそこ」
姫代がある一点を指差す。店の自動ドアの近くでウロウロと動き回る小動物。
「ネコだよ、ネコ。可愛いー」
姫代が目を細める。
私は目が悪いので近くまで行かないと分からなかった。
二人で売り場を離れネコの元へ歩いていった。
お菓子の甘い香りに誘われたのか、自動ドアの前でネコは鼻をひくひくと動かしていた。
とても小さい。どうやら子猫のようだ。
私たちはしゃがんでネコを眺める。
「可愛い〜。ノラちゃんかなぁ」
「そうなんじゃない?きったないし」
私はネコは好きだ。でもそれは綺麗なネコ限定。
こんな汚い灰色のネコは例外。ネコは綺麗で優雅でいなくちゃいけない。
「可哀想、お腹減ってるのかな。加納さんに頼んだら餌くれないかなぁ」
姫代は眉を八の字にしてネコを見つめた。
ちなみに加納さんとは、私たちが働いてるケーキ屋『くれいむ』のパティシエ兼オーナーの加納 明良のこと。アキヨシではなくアキラと読む。
くれいむの従業員は四人。もう一人宇崎という事務の仕事もこなす男の店員がいるが今はどうでもいい。
【ネコ系女は少々冷たい】
「だーめ。餌なんてあげたら住み着いちゃうでしょ?ここはケーキ屋。動物お断りなの」
「でも…ほら、朝希のこと見てるよ〜。朝希ちゃんお菓子ちょうだいちょうだい!」
一オクターブ高い声を出してネコにアテレコをする姫代。
そんなことされたって情なんか移んないっつうの。