ネコ系女 #1-2
【ネコ系女は綺麗な物しか好まない】
「ネコなんかほっときなさいよ。暇な時に在庫確認しとかなきゃ」
「え…でも…ぁう〜…」
名残惜しそうな姫代をその場に残し、私はさっさと売り場へ戻った。
くれいむはそんなに大きくはないけれど、なかなか品のある店だと思う。
ウッド調に揃えられた内装で、ショーケース内にはフルーツたっぷりのタルト、苺をふんだんに使ったショートケーキ、テラテラとテンパリングされたチョコレートの上に金粉をまぶしたショコラケーキ、カリッとした固めの生地でバニラビーンズ入りのカスターをサンドしているシュークリームなどなど、色とりどりのお菓子達が可愛らしく並んでいた。
陽当たりが良いから室内はキラキラと明るく、何より売り子(私達のこと)の制服が可愛い。
お姫様みたく肩の部分がフワッとしたのシャツの上には黒い細身のワンピース。胸元の赤いリボンが、少しフリルの付いた白いエプロンと合っている。
正直、ここにいたら男受けいいんじゃないかという理由だけで働きだしたが意外にも仕事というものは面白く、飽き性の私が二年経った今でもしっかりと働けている。
今からしようとしている在庫確認というのは、今朝並べた菓子の個数と今の菓子の個数を照らし合わせ、何がいくつ出ていったかを記しておくのだ。
別にやらなくてもいいのだけど、同じことを閉店後にもするので、途中経過が分かっていると後々が楽だった。
私は商品名の書いてあるファイルを引き出しから取り出し、ペンを片手にショウケース内を見渡した。
「モンブが三、ショートが八、ショコラが四…」
「にゃ〜ん、にゃ?にゃん」
姫代はまだネコとガラス越しに遊んでいる。
姫代に仕事をしているんだということを見せつけるため、わざと声に出しているというのに当の本人は全く気付く様子も無い。
「…はぁ」
私はため息をついた。
暇だし姫代はネコに夢中だし仕事してんのは私ばっかり…。
気が滅入りそうだ。
【ネコ系女は退屈が嫌い】
在庫確認も終わりに近付いたその時
「い、いらっしゃいませ!」
慌てたような姫代の声が店内に響いた。
と同時に自動ドアが開きカランカランと呼鈴が鳴る。
見ると男の人が姫代に声を掛けているところだった。
「あの〜、すみません。ケーキ、ありますか?」
「はい、こちらにございます」
ケーキ屋なんだからあるに決まってんでしょ。
私はファイルを元に戻し、営業スマイルで彼を待った。
「いらっしゃいませ」
何だか地味な男だ。
肌色はやや白く、髪は真っ黒。癖毛だかパーマだか知らないけど、どっちにしても半端な感じ。
当たり障りの無い白いシャツにチェックのストールを巻いている。
ストレートのジーンズに靴は普通の黒のスニーカー。
ダサくは無いけど徹底的に普通な感じ。五十六点。