憂と聖と過去と未来 4-9
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目が覚めると、窓からはもう夕日が射し込んでいた。
「ん…」
あたしは点滴を受けていたらしい。
ナースコールを押して事情を訊くと、あたしは突然倒れたようだ。
疲労による一時的な貧血とのこと。
しばらく看護士さんと会話をすると、聖が目を覚ましたという話を聞いて、慌てて病室を飛び出した。
聖のいた場所がわからなかったため、ナースステーションで尋ねると、聖は病室を移動したらしい。
あたしはお礼を言って、言われた病室へと向かった。
病室にたどり着いたあたしがノックをすると、おじさんのどうぞ、という声が聞こえた。
「聖!!」
あたしは勢いよくドアを開ける。
「憂ちゃん…大丈夫かい?」
「…うん」
一瞬であたしが迷惑をかけたことを思い出し、申し訳ない気分になる。
でも今はそれより聖だ。
あたしは聖の顔を見る。
「…ひじ…り?」
聖の表情は、あたしが知っている聖じゃなかった。
「……」
聖は何も答えずに俯いている。
聖の切れ長の目はより鋭く、他を寄せ付けない雰囲気を出していた。
「聖…大丈夫?」
「…大丈夫なわけ、ないだろう」
あたしを見ずに、小さな声で言った。
しかし、明らかに怒気をはらんでいるというか、投げやりな感じが見てとれる。
泣きそうになったがとっさに堪えた。
「聖…ごめん」
「……」
「聖、じゃあ明日また来るから」
おじさんは聖にそう言うと、おばさんと病室を出る。
「……」
あたしは何も言えなくなり、二人の後を追いかけた。
「おじさん、おばさん、謝っても許されないけど…本当にごめんなさい…」
二人の背中に向かって言う。
すると、二人は振り返って微笑んだ。
「憂ちゃんが謝ることじゃないよ」
「そうよ。憂ちゃんこそ大丈夫?」
「…」
二人はそう言ってくれたけど、あたしは自責の念に激しく駆られた。
帰りの車の中で、聖は精神的に疲労していてこの事件を境に限界を超えたらしいということ、傷の治療も相まってしばらく病院で様子を見るということを聞かされた。
帰宅してすぐ、昨夜からの出来事を整理する。
聖を刺したのは佐山さんで、聖は何かしら精神疲労を受けていたということ。
聖は…佐山さんに脅されていた?
そんなことが頭をよぎる。
今まで不可解なことは沢山あった。
すべてが佐山さんとつながっているとすれば、元をたどればやはりあたしだ。
あたしがあのとき…
すべては最初の判断をあたしが誤ったこと。