青いホース-1
手で掘ろうっていうのが無謀だった。スコップなりなんなり使えばよかったんだ。今更言ったって遅いのだけど。すでに私の手は、土まみれで茶色くなってしまった。手のひらだけならよかったのに、爪の先まで入り込んだ土を落とすのは、面倒くさいにきまっている。どうせ綺麗には落ちきらない。何日か私の爪は土と共に過ごさなくてはならないんだろう。ああ、さいあく。
とにかく手を洗おうと思って、手入れのされていない、庭の隅へと足を向けた。伸び放題の雑草のかげにひっそりとある水道。ひねろうと思って伸ばした手の先に見えたのは、蛇口をふさぐ青いホース。
まだ続いている。
まだ続いている。
庭の隅から生け垣を越え、隣家との境にある細い通路を抜け、そうしてホースは、
「あ」
「え」
声をだしたら目があった。短く、明るい茶色のまっすぐな髪。背の高い男のひと。ホースの先を絞る指。弧を描いて吹き出す水。飛び散る飛沫と、あ、虹……というか……誰だろうかこの、ひと、は?
「……み、水やりですか」
「ええと、はい」
「……えーっと……あー……あ、虹、でてるよ」
なんといったらよいかわからず、とりあえずホースの先を指さしてそう言ってみたら、おお、とびっくりしたような声があがった。気付いてなかったのか。
「すごい、虹だ」
「うん、あと、ズボン濡れてる」
「え、あ、ほんとだ」
それも気付いてなかったのか。
慌てたようにホースを自分から遠ざけて、軽く足踏みをする。彼の白い綿のパンツは水玉模様。ううん、なんだか、間抜けだ。