青いホース-8
「何を埋めたの」
「え?」
「そんなに忘れたくないほど、大切なものを埋めたんでしょう?何を埋めたの」
聞けば、彼はまた笑った。目尻をさげて、口元を緩ませて、首もとを撫でられている犬のように気持ちよさげな笑み。ふにゃり、と柔らかなその顔で、
「きみを埋めたんだよ」
私は何も言わなかった。彼は緩んだ口元のままで、静かに瞼を閉じる。私がさっきしたのを真似するみたいにして目を閉じて、何かを思い出しているのだろうか。その瞼の裏に浮かぶ景色は、
「ぼくはきみのママにこの家に連れてきて貰って、きみのパパと、きみに出会った。みんな優しいひと。ママはいつもぼくを撫でてくれて、おいしいご飯を食べさせてくれた。穴をたくさん開けてよくパパには怒られたけど、怒った後に、パパはこっそりぼくにおやつをくれた。二人とも、優しいひとなんだ」
やっぱりこっそりお菓子をあげていたのか、お父さんめ。おやつは一日一度だけという決まりをつくったのも父だったのいうのに、まったく、もう。
彼は、静かに目を開けた。そうして私をじいっと見る。ああ、うん、知っている。この視線を知っている。何か言いたげな、私を労るような、あたたかい瞳。私はこのこを知っている。多分誰よりも、この世の誰よりも、知っているのだ。
「きみも優しい。すごく優しい。だから、たくさん悲しい。きみのママが病気で死んだときも、その後パパが壊れてしまったあとも、ずっときみは優しい。ぼくはずっときみを見てたから、知ってる。わかるんだ」
守ってあげられなくてごめんね、とそんなことを言う。ばーか、あなたに守って貰おうなんて最初から思っていないよ。余計な気を遣わなくてもいいのに、犬の分際で、本当に馬鹿なんだから。
馬鹿、と口にだしていったら、情けない顔で笑った。そうか、人間にするとこんな感じの笑顔になるんだ。誰かに似ている、と思って、すぐに父だとわかった。文系青年だった父は元々線が細く、その笑顔の頼りなさといったらなかった。母は、そこが好きなのだと笑った。犬は飼い主に似るというけれど、本当かもしれない。そうしてこの笑顔が好きな私は、ばっちり母に似てしまったのかもしれない。
そんなことを考える私を前に、それにね、と言葉を続ける。