青いホース-7
「なんの種なのか聞くのを忘れちゃったけど……多分、きっと、すごく綺麗な花が咲くと思う」
「何を根拠に」
「だってきみのママは、綺麗な花が好きだったでしょう?たくさん植えてた」
さらりとそんなことを言う。母は園芸の趣味をあまり他人に話したりすることはなかったのに。そんなこと、どうして、
「知ってるし、わかるんだ。綺麗な花が咲くよ。だってこの種は、きみのママに貰ったんだから」
「嘘つかないで」
「ウソはつかないよ」
まっすぐに見つめる瞳が、まっすぐに私に訴えかけているのがわかる。この視線を、私は知っているような気がする。
「きみが優しいのも、綺麗な花が咲くのも、ぜんぶ、本当だよ」
もしかしたら、本当に嘘じゃないのだろうか。なんでだろう、そんなことを思うのは、このひとのまっすぐな目のせいか、それとも私がただ騙されやすいというだけなのか。後者でなければ良いと切実に思う。これで実は全部嘘でした、じゃ洒落にならない。
種を植えたのはね、と彼は続ける。
「目印が欲しかったんだ。ぼくはすごく忘れっぽくて、だけど、今回は本当に大切なものを埋めたから、場所を忘れたくなかったんだ」
だからどこに埋めたかわかるように、種を植えたのだという。そのために母に貰った種なのだという。そうして今、必死に水やりをしているのだという。
単純で、馬鹿で、ああ、大切な誰かにこのひとは酷く似ているのだ。