青いホース-3
時折冷たい風が吹きすさぶ今日この頃。春はまだ先なのか、もう目の前なのか、いっそもう春なのか。どうでもいいけれど、水が冷たい。すごく冷たい。
「手、土だらけだね」
「穴を掘ってたから」
「穴?」
手を洗いたいのだと言うと、男のひとは親切にもホースの口を私の手元に持ってきて、そのまま手を洗わせてくれる。
「死んだ犬を埋めてたの」
案の定、爪先の土はなかなか落ちずに、黒く残ってしまう。小学校の頃習ったように両手の爪と爪をあわせてかりかりとひっかくように動かしてみるけれど、なかなかどうして奥の方まで入り込んだ土はおとせない。くそ、面倒くさい。
「わざわざ手で穴を掘って?」
「そう」
短く答えたら、どうして?と目で問いかけられた。
「あのこの気持ちになってみようかな、と思って」
あのこは間抜けな犬だった。いつもどこか抜けていて、鈍くさく、歩かずとも棒にあたるような馬鹿なこだった。私が小さかった頃に、母がどこからか貰ってきた、小さな犬。犬が嫌いな父にも、小さな犬ならばうるさく騒がないから良いだろう、と説き伏せ飼い始めたのだ。しかし小さかったのは子どもの頃だけで、家族の期待を裏切ってあのこはぐんぐん大きくなった。悲しいかな、私も父も、貰ってきた母すらも気付いていなかったのだけれど、あのこは大型犬だったのだ。そのすらりと長い足ときたら、他の犬に類を見ないほどだった。私よりも間違いなく美しい足の持ち主だった。うう、ジェラシー。