青いホース-2
「いや、さすが、鋭いね」
というかただあなたが鈍いだけのように思うのだけど。ふにゃりと緩く笑って、お礼を言われてしまった。なんだろうか、変なひとだ。
年の頃は二十代前半くらいだろうか。ぱっちりと丸い目がちょっと可愛い。ひょろりと痩せていて、ちょっと不健康なくらいだ。このひと絶対私よりも足細い。うう、ジェラシー、とかなんとか言っている場合ではない。
「それでその、あなた何してるの」
「え、それは、きみに言われたとおりで」
水やりをしているということはわかる。けれどこの場所、私の家の裏庭に当たるここには雑草くらいしか生えていないので、非常に迷惑な水やりなのだけれど、それはまあいい。昔植えてそのまま忘れ去られた朝顔やなんかの水やりにもなるかもしれないし。それはそうとそうじゃなくて、
「みずどろぼう」
その手に握られた青いホース。その反対側は、我が家の水道に繋がっているわけで。
「しかもなんでうちの裏庭に水やり?」
親切だとすれば方向を一生懸命間違えている。
正直、とってもあやしい。疑いのまなざしでじいっと見てみるけれど、私の追求に、思いの外男の人は慌てることもせず、もう一度ふにゃりと笑った。目尻が下がって、柔らかく弧を描くその細くなった目が、ああ、このひと、なんて幸せそうに笑うんだろう。
そうして笑って、酷く嬉しそうに言うのだ。
「だって、ぼくはこの庭が大好きだから」
知らないよ、誰だよ、あなた。