青いホース-10
あなたの気持ちになってみようと思ったのだ。大切なものを埋める気持ち。それにもう二度と出会えない気持ち。そして私はきっとわかっていた。庭に穴を掘るという行為が、今の父にとってどれだけ苦痛となることか。わかっていて、やったのだ。殴られても仕方がない。それで死んだのは、運が悪かったとしかいいようがない。どちらにせよ死ぬならばあなたを守って死ねればよかったのに、どうしてあのとき出なかった勇気が、後になってでるんだろう。なかなかうまく格好がつかないものだ。
そして物語は振り出しに戻る。
私は死んで、青いホースをたどる。
「きみがぼくを埋めてくれた。だからぼくはここにいて、ここに、大切なきみを埋めた。きっと綺麗な花が咲くから、忘れたりしないよ。いつだって、見つけてあげるね」
ああ、だとすれば、彼が種を貰ったというのだから、母もどこかに埋まっているのだろうか。母を大切に思う誰かが、彼女を埋めてくれたのだろうか。
私はそれが父であると確信していた。父はきっとその心の中に、彼の大切な愛するひとを埋めたのだ。父が、隠した場所を忘れてしまわなければいいけれど。今はダメでも、思い出してくれるといいのだけれど。いくつもいくつもはずれの穴を掘って、叱られて、それでも諦めずに掘り続けてくれれば。
「だからほら、水をやらなくちゃ。花が咲かないとわからないからね」
「本当にあなたは、忘れっぽいよね……。まあいいや、私も手伝うよ」
地面にぐったりと横たわったホースを拾い上げて、私は彼がしていたように、その口を指でふさいで、水をまく。弧を描いて吹き出す水が、彼の植えた種の上に降り注ぐ。
「あ、ほら」
「え?」
「虹がでてるよ」
いつか誰かが水をやってくれるだろうか、私たちの大切な目印に。いつかのそのとき、きっとそのひとは手入れのされていない庭の隅へと足を向ける。伸び放題の雑草のかげにひっそりとある水道。ひねろうと思って手を伸ばせば見える、蛇口をふさぐ青いホース。