電波天使と毒舌巫女の不可思議事件簿 ―桜編―-8
「ふっふー♪° ねーねー、桜って何かな? 何のイメージがある?」
「桜のイメージ……ですか?」
道中の会話。桜についてそんなことを訊かれた。
「春とか、別れ、出会い」
「儚いとか。卒業、入学。あと、思い出?」
佳奈と彩花が口々にイメージを言っていく。天使はある程度納得したようだ。
「そうだよー、そんなとこだよねーうんうん◎†」
佳奈の手には小さくなった消火器がある。文化祭の時に小さくしてくれてたら今まで置き場に困らずに済んだのに。
彩花は美由貴が苦手らしく、あまり話そうとはしない。まあ、美由貴を苦手に思わない方が稀で、自分だって美由貴は苦手な方だ。
「そういうイメージがあるなら、その桜ね、そういうのだと思う∴∴」
何言ってるかさっぱり分からない。ただ、彼女なりに真面目なのは表情でわかったので、皮肉ったりはしないでおいた。
「あと、噂? それもきっとあるね†……永遠。そんなとこかな◎」
一人で勝手に納得してる。よくわからないが、口を挟むとややこしいことになりそうなので、勝手に話させておく。
「多分ね、その桜。工事でさー、変な風に力が働いちゃったんだろーね☆ 思い出の世界に飛ばしちゃうからさ、工事してたら上の空に飛んで怪我人続出だろうし☆ あはは、思い入れが強かったら身体ごと思い出の世界にポンポンポーン!!!」
何が嬉しいのかやたらと上機嫌な天使はスキップしながら例の桜まで来た。
佳奈にはやはり、この天使の考えが理解出来ない。考えてない可能性も否定できないけど。
「オギノシキぼーん! それで真琴は帰ってくるよー☆」
と、天使は言う。だから佳奈は、小さな消火器を桜に吹きかけた。
すると――
「小林さん!」
真琴だけでなく、他に行方不明になっていた彩花のクラスメートや、数名のカップルが出てきた。思い出にのぼせていた頭を冷やした、ということなのだろうか。
「――真琴、大丈夫?」
彩花はクラスメートや他の人の介抱に回り、だから天使と巫女のやり取りを見ていたのは佳奈だけだった。
「お父さん、お母さん……死んだ。火が、火が、みんな燃やして、飛行機、落ちて、あああアタシは、見殺しに」
「違う。大丈夫。大丈夫……」
泣きじゃくる巫女は、思い出の世界で何を見たのか。
答える天使の声は、まるで母親のように包容力があって、全てを知っているかのようで。
そんな天使がそばにいながら、それでも巫女は泣き続けた。まるで、悪夢に怯える小さな子供のように。