僕らの関係 残るヌクモリ。-31
「だって、恵は女の子……」
「悪いかよ、女が女を好きになって……」
「僕は男」
「じゃあ問題ないじゃん。生物学的にも、見た目的にも」
倫理的な問題は回避されていないのだが、それをいったところで圧倒的な力関係を覆すこともできそうにない。事実、腕相撲では両手でも勝てたことが無い。
「だってだって……」
「うるさいな。まあ、そのほうが燃えるけどね……」
首筋に唇をあてがわれ、最近見え始めた喉仏に歯を立てられる。それは柔く甘いものであり、擽られるような刺激に自ら差し出してしまいたくなる。
手がパジャマの中に入ってくる。硬い指先が触れると、意外にも嫌悪感が沸いてくる。
相手は恵。ちょっぴり乱暴だけど、明るくて格好良い、そんな子。なのに、今は自分の身体を欲望で這いまわろうとしている。
「や、いや……恵、よしてよ、僕……」
「僕じゃない、私な。幸恵のキャラはおどおどした眼鏡の地味キャラな。んで、隠れて一人エッチしてたところをあたし、じゃない、俺に見つかって、それをネタに脅迫される……そんな設定」
現実には起こりえないシチュエーションをすらすらと想像する恵に、またも幸太という自我がないがしろにされてしまう。
「だって、恵……」
「なあ、お願い。幸太。あたしのわがまま、聞いてよ……」
胸元を弄る手が震え、爪が立つ。表面を少し削る程度のはずが、何故か貫通して心にまでその鋭さを届かせる。
――恵も、そうなの? 誰か、待ってるの? 誰? 僕らの知らない人? その人……好きなの?
不快感が薄れ、代わりに目頭が熱くなる。それは涙がこぼれる前触れではなく、言い争いやケンカをしたときのきな臭さに似ている。
「いいよ、恵……僕、じゃなくって私、恵にならされてもいい」
できるだけ女らしく。由香のようにしおらしく言い放ち、里奈のようにイタズラっぽく笑う。
「幸恵……、俺……、俺……ずっと前から好きだった」
素材とは毎日のように顔をあわせているものの、幸恵となら初対面のはず。にもかかわらず、ずっと前という「恵君」に笑いがこみ上げてくる。
――調子良いんだから。恵ってば……。
恵は鼻息を荒げ、幸太のパジャマを乱暴に引っ張る。ボタンが二つほど飛ぶが、気にせずシャツに手を伸ばす。
薄く白い胸板は発達の幼い少女のよう。いっそのこと未処理の腋の下もしっかり剃っておけばと思うほど、幸恵の体は女の子をしていた。