僕らの関係 残るヌクモリ。-30
「なんつうか、女だって性欲あるし、先輩みたいに遠距離恋愛してる人ってタイヘンだよな。ま、今回のことはあたしも悪かったよ。コウがそこまで嫌だとは思わなかったし」
「嫌じゃないよ。ただ、誰かの代わりみたいにされるのがちょっと……」
事実、美雪に触られたのは新鮮な気持ちになれた。
「あはは、そうだね。悪かった。コウはコウだもんね。あたしの大切な幸太……」
「ちょっと……恵?」
幸太が美雪の手の感触を思い出している隙に、恵は彼の隣に移動していた。
「顔、近いよ……」
既に眼前一〇センチの距離にある、男前な恵の顔。凛々しい眉に意志の強そうな瞳、すらっと整った鼻梁に、キザったらしく歪む唇。男の幸太でも、つい惚れてしまいそうになる。
「キスしていい?」
間近で感じる恵の吐息はケミカルな匂いがする。
「答えになってないよ」
けれどその奥に、シトラスの子供っぽい香りがした。
「嫌じゃないんだね? ならするね……ちゅ……んちゅ……」
舌を絡めても、刺激が薄い。こんなことなら飲まなければ良かった。それでも、注ぎ込まれる粘液のとろりとした感覚が心地よく、いつしか幸太も目を閉じ、されるがままになる。
――恵にリードされてる。なんか僕、男なのに、恵の方が男っぽいし、カッコイイな……。
また自分が女の子になってしまったようで、苦い既視感を覚える。それでも、恵にならされてもいい。そう思えた。
「コウ、今日のこと、由香にばらして言い?」
唇の端と端、短い糸が結んでいるのに気を取られ、一瞬何を言われたのかわからなかった。
「困るよな、コウ……だからさ、取引しようぜ……」
「なんの?」
「あたし、今日のこと黙っててやる。その代わり……」
「その代わり?」
「コウ……じゃない、幸恵のことレイプさせてよ」
にんまり笑う恵だが、目は至って真面目、笑っていない。
「レイプって、そんなのダメだよ。てか、僕は幸太だよ」
「違う、幸恵だ。濡れた髪、セクシーだよ、ゆきえ……」
先ほど鏡で見た自分を思い出す。しっかり口紅を落としていなかったせいか、ほんのり赤紫を纏う唇に、肌に張り付く髪が怯えた気弱な雰囲気を強めていた。
まるっきり美少女というほどではないにしろ、クラスに一人はいた、守ってあげたい子、そんな印象だった。