僕らの関係 残るヌクモリ。-29
「ねえ、恵、アッキーって誰?」
「ん、ああ、あたしもよく知らないんだけど、先輩の遠距離恋愛の相手らしいぞ。なんでもコウに似た子なんだってさ」
「僕に似てるの? なんだか可哀想だったけど、悪いことしちゃったかな」
「さあな。あ、まさかコウ、おいしい思いし損ねたんで、今になって後悔してるとか?」
恵は下から顔色を覗き込むように幸太を見るが、苦虫を噛み潰したような彼の表情に、肩を竦める。
「あはは、悪かったよ。だってさ、先輩、最近練習に身が入らないっていうか、上の空でさ、なにかいい薬はないかって思ってたら、コウがいたから」
「恵、僕だって怒るよ」
「だから謝ってるだろ。まま、もういっぱいやりなよ」
飲みかけのコップを置いて、別の缶を開ける。ライムが描かれた缶が開かれると、爽やかな香りがした。舌先で舐めると、それは若干の苦味と強い炭酸で舌をびりびりさせる。
「コウはオナニーしてる?」
「なに、急に……」
てっきり弁解が来ると思っていた幸太は、明後日の方向に行く話題にどきりとする。これではまたごまかされてしまうと、彼の口調にも苛立ちが加わり始める。
「恵、いいかげんにしないと……」
「してるか?」
しかし、恵は大真面目な様子で幸太を見据えている。
「最近はしてるよ。たまに」
「誰のこと考えて?」
「いいじゃん、そんなの」
「由香……」
「……っ」
幸太はいきなり図星を突かれてしまい、ものの見事に態度に表してしまう。
「まあそうだろうな。わかるよ、そういうの。けどさ、なんでするの?」
「だって、そんなの……我慢できないし」
里奈との初めての行為を経た幸太の下半身は性の快感を覚えてしまい、持ち前の若さを持て余して、日々雄雄しくいきり立った。しかし、学園祭準備も終わり、教室に遅くまで残っている理由もなくなった二人は、それまではほぼ毎日だった課外性教育も、二日に一度になり、最近では週に一度まで減ってしまった。
「先輩さ、男の趣味変だから、彼氏とか作れないんだよね。それに、妙なところで潔癖で、オナニーしたがらないんだよ。なんでも、穢れない手じゃなきゃヤダとかわけわかんないこといってさ」
「それじゃあ僕もダメじゃん」
「ああ、穢れないっていっても見た目な、見た目」
「見た目?」
「ああ、そういう見た目ってこと。まあ、それはいいや」
なにか言いにくそうな様子の恵に、幸太も敢えてそれ以上追及しない。ただ、遠回しに変な趣味の対象にされるのは、あまり気持ちよいことでもない。